6月に金融庁の審議会の報告書で「老後資金は2000万円必要」と発表され、大きな話題になった。しかし、国民は漠然と「2000万円あれば死ぬまで安心して生きていける」と考えるだろうか。この「2000万円」という金額は、ひと月の必要な平均的生活費から、ひと月の平均的な収入を引いた“赤字額”の平均的寿命までの総額をいっているのだ。その金額は、あくまで“生活費の不足額”で、医療費、介護費、修繕費等の臨時出費は含まれていない。
もちろん、平均的な生活費よりたくさんお金を使っている人はいるだろうし、平均より収入が少ない人もいるだろう。また、平均寿命より長生きする人も多数いるはずだ。そういう人たちの老後資金は当然、2000万円以上必要になる。それだけではない。年を取ると、病気にもなりやすくなるし、介護も必要になる。その費用はどうするのだろうか。
私事になるが、先日3回目の脳卒中になり、入院した。1回目は気が付かないほどの軽い脳梗塞、2回目はかなり重い脳出血、そして3回目は早めに気がついた脳梗塞。2回目の脳出血の時には「要介護4」になり、がんばってリハビリをした結果、要介護1まで回復した。もちろん、リハビリをするにも費用はかかる。
それよりも今回驚いたのは、病院の差額ベッド代のことだ。今まで、老後に病気になったら、個室などの差額ベッドを使わず大部屋を使えば余計な費用は発生せず、予定の範囲内で生活できると考えていたが、それも間違っていたことがわかった。なぜなら、政府の方針により、病院のベッド数が以前の3分の2に減らされたからだ。入院したくても入院できない人が出る始末で、病院側は収入が減るので大部屋を減らし、4人部屋でも差額ベッド代を徴収するようになった。差額ベッド代は医療費控除にもならず、個人が全額負担しなければならない。従って、医療費はあまりかからなくても、差額ベッド代がバカにならない。この傾向は今後さらにひどくなると考えられる。
現在、国の医療費、介護費が増大して、その他の部門に税金が回らなくなってきている。それが今後は国民の負担になり、国民の老後資金にのしかかってくることになるだろう。
一体、国民の老後資金はいくら必要になるのだろう。想像するだけで恐ろしくなる。簡単に見積もってみると、老後の平均的な医療費の総額として約800万円(厚生労働省調べ、70歳以上年平均80万円×10年)、老後の平均的な介護費約900万円(生命保険文化センター全国実態調査、年200万円×4.7年)、老後の平均的な住居費+修繕費(固定資産税等約25年間で約500万円+修繕費25年間で約400万円=900万円)合計すると約2600万円。先の2000万円と合わせ、老後資金として約4600万円用意しておかなければならないことになる。金融庁発表の数字は、かなり不正確なものだと思われる。個々人によって金額はかなり異なるが楽観視はできない。
(文=藤村紀美子/ファイナンシャルプランナー・高齢期のお金を考える会)