元国税局職員、さんきゅう倉田です。
税務調査の中で「反面調査」を行うことがあります。調査先の発言や提示資料が信じられないとき、必要な情報を出さないとき、二進も三進もいかないとき、調査担当者は調査先の取引先から資料を取り寄せたり、実際に臨場したりします。
調査先からすると、税務調査を受けていることが伝わり、「脱税をしている会社である」と誤解を受けることもありますし、お呼びでない客の来訪で迷惑をかけてしまいます。基本的は良いことはりません。
仮に、あなたが税務調査を受けたとして、正しい処理にもかかわらず調査担当者に納得してもらえない場合を除いて、反面調査のメリットはないと言っていいでしょう。ただ、正しくない処理をごまかす法人や個人がいるのも事実です。可能な限り、調査に協力していただけると、職員はストレスなく働くことができます。
今回は、反面調査を受けた会社の経理担当者の話です。
反面調査を受けたのは、ウェブサービスを提供する会社でした。ある日、総務から回ってきた電話に出た経理担当者のAさんは、電話の相手が税務署だと名乗った瞬間、背筋が凍ったそうです。
不正な経理処理はしていないつもりですが、税務調査を受けた経験はなく、どのように対応してよいかわかりません。知人の会社は、税務調査によって莫大な金額を追徴され、資金繰りがうまくいかなくなり、不渡りを出して会社は倒産の危機に陥り、社長は一家離散し、従業員もほとんど辞めてしまったと聞きました。自分の会社がそのようなことになるとはつゆほども思いませんが、いい気持ちはしませんでした。
電話をかけてきたのは、管轄外の税務署の法人課税部門でした。
「反面調査でお電話しました」
「はあ」
「取引内容がわかるものを見せていただきたいんです」
「そうしましたら、FAXで送ればいいでしょうか」
「いえ、近くなので伺います」
このやりとりで、Aさんは安堵したそうです。自分の会社への調査ではなかった。これは反面調査だ。時間は取られるが、さっさと資料を見せれば、すぐに終わるかもしれない。
調査官に裏切られた
反面調査は、いろいろな方法で行われます。電話での確認もありますし、資料を郵送やFAXで送ってもらうこともありますし、直接臨場することもあります。調査担当者の都合なので、呼び出すということはありません。
税務署の人間は、ふたりでやってきました。名刺には、「上席国税調査官」と「事務官」とあります。ふたりとも丁寧な口調で、挨拶や短い雑談を交わした後、資料を見せてほしいと言いました。