近年の消費者意識の変化も追い風だ。てんや各店では持ち帰りも行っている。近年、この持ち帰り率が店舗売り上げの約3割に高まり、利用者の7割が女性だという。働く女性が当たり前となった現在、料理に手間がかかり、油などの後片付けが大変な揚げ物は、あまり家庭では行われなくなった。とんかつやコロッケは惣菜店でも買えるが、天ぷらを買える店は少ない。
「郊外型店では、全売り上げの35~40%が持ち帰りという店もあります。出るのは圧倒的に弁当で、ご飯にのってタレがしみたかたちで食べたいという方がほとんどです。持ち帰り容器も、後で食べる時に天ぷらの衣が適度にしんなりする容器を取り入れ、食べるまでになじんでしまうタレも店内より3割多くかけて、テイクアウトの楽しさも追求しています」(同)
最近の東京都内の店内では外国人客の姿も目立つ。海外では「フリッター」になじみがあるので、天丼への抵抗感も少ないようだ。海外展開にも意欲的で、タイ、インドネシア、フィリピンの東南アジアを中心に、2020年までに100店舗の海外展開をめざしている。
「年配客」「おひとりさま」需要も取り込む
テン コーポレーションの業績も好調で、14年には売上高116億7700万円、経常利益3億5700万円、15年には売上高129億4100万円、経常利益5億3100万円と大きく業績を伸ばした。だが、懸念すべき問題もある。もっとも大きいのは「海老天」に使われる主力食材のブラックタイガーの価格高騰だ。
「13年に海老の早期死亡症候群の流行で、ほかの品種である『バナメイ』生産量が激減した影響を受けて、『ブラックタイガー』の納入価格が急騰しました。その時は『上天丼』や『上天ぷらそば』など、海老天が2本入ったメニューを一時休止せざるを得ませんでした。いまでも急騰前の納入価格には戻っていません」(同)
こうした懸念は残るが、近年の外食の顧客層にも対応できていることが、てんやの特徴だ。それは「年配客」と「ひとり客」だ。
もともと同店はリタイヤ世代に強い。平日午後には、現役時代に利用していたと思われる年配客が、明るいうちから天丼とビールを楽しむ光景も目にする。「年金支給日の偶数月15日には、店内が一段とにぎわう」という。