夏の暑さの余韻も落ち着き、「食欲の秋」が実感できる季節となった。ランチに職場や外出先近くの飲食店を利用するビジネスパーソンも多いだろう。
とはいえ、収入の伸びない時代なので昼食予算にも限りがある。1回の昼食代にいくら使うかを調べた「2016年サラリーマンのお小遣い調査」(新生銀行)によれば、男性会社員は587円、女性会社員は674円だ。限られた額で昼食代を捻出する実情がうかがえる。
そんな庶民の強い味方が、ワンコイン(500円玉)から天丼を食べられる「天丼てんや」だ。首都圏中心に店舗数は188店を数え(2016年9月末)、16年中には200店を突破する見通しだ。今回は右肩上がりで業績を伸ばす同店の秘密を探った。
「基本」「限定」「異色」の3パターンの天丼で訴求
「1店舗当たりの平均来店客数は、1日約400人、月間では約1万2000人にご利用いただいています。以前よりも2割ほどお客さまが増えました」
てんやを運営するテン コーポレーション社長の用松靖弘氏はこう話す。好調の理由はいくつかあるが、もっとも大きいのは原材料の高騰でも主力商品の「天丼」を500円(税込、以下同)から値上げせず、企業努力で吸収したことだろう。
さらに、さまざまな派生商品を投入して店舗メニューを活性化させる手法も興味深い。たとえば9月15日からは「松茸と海老、秋鮭の秋天丼」(830円)の期間限定メニューをスタートさせた。同時に投入したのは「黒マヨ鶏天丼」(690円)だ。こちらは黒酢にマヨネーズをかけた商品で、伝統的な天丼とは一味違う。
「もっとも注文数が多い天丼は、海老、いか、きす、かぼちゃ、いんげんが入り、みそ汁付きで並盛500円なので、店内で食事をされる方の約4割が注文されます。これ以外に上質感を求められる方向けに秋天丼を、若い方でも天丼に興味を持っていただくために、鶏天丼を投入しました。野球でいえば、前の2つはど真ん中の直球、もうひとつは変化球です」(同)
看板商品の天丼を「基本」とすれば、秋天丼は「限定」、鶏天丼は「異色」での顧客訴求といえるだろう。後述するが、さまざまな外食店で経験を積んだ用松氏は、キャッチフレーズの打ち出し方も上手だ。「日本には四季がある。てんやには旬がある」を掲げて、年に8回ほど季節の限定品を投入している。10月下旬からは牡蠣を使った天丼が登場する予定だ。