新型ハリアーが売れる3つの理由…GLCやX3、ボルボXC60よりハリアーが人気のワケ

　2020年6月17日に登場したトヨタハリアー、販売開始1カ月後時点の受注台数が約4万5000台となり、月販目標台数3100台の約14.5倍となったことが、7月17日に発表された。トヨタの公式サイトには受注から工場出荷までのメドが表示されているページがあり、それが通常は3カ月程度なのだが、ハリアーに関しては現在「詳しくは販売店にお問い合わせください」と出ている。つまり、納車まで時間がかかることが示唆されているのだ。

　SUV（スポーツユーティリティビークル）が世界的に人気だとはいえど、トヨタは伝統あるランドクルーザーを筆頭に、ランドクルーザープラド、ハリアー、RAV4、C-HR、ライズとすでに6車種の充実したラインナップを誇っている。しかも9月にはライズとC-HRの間を埋めるヤリスクロスが登場予定で、2021年にはRAV4とC-HRの間を埋めるカローラクロスが登場するといわれている。そうなれば、トヨタのSUVラインアップは8種類、他の国産メーカーの追随を許さない充実ぶりだ。しかも世間はコロナウィルス禍で外出自粛が出ていた期間もあったにもかかわらずの、ハリアーのこの圧倒的に順調な滑り出し。これはいったいなぜなのか？　本稿では、新型ハリアーに試乗して見えてきた、この大ヒットの理由を考察してみよう。

1997年に登場した初代ハリアー、レクサスRXと統合後、4代目ハリアーにいたる

　まず、ハリアーという車種自体のことを簡単に紹介しておきたい。2020年6月に登場したハリアーは通算4代目に当たるモデルで、初代ハリアーは1997年に登場。当時は、ランドクルーザーやパジェロなどのラダーフレームを採用した本格的なクロカン4WDが主流。その時代に、スタイリングはクロカン4WDをベースに洗練させ、ボディの骨格は乗用車のカムリをベースとしたモノコックを流用。悪路走破性よりもオンロードでの乗り心地の良さを重視した味付けとなり、ハリアーは次世代の高級車というポジションを担うモデルとして大ヒット、国産プレミアムSUVマーケットを開拓した。また日本国内ではハリアーという名前で販売されているが、海外ではレクサスRXとして展開された。

　2003年に初のフルモデルチェンジを行い、ハリアーは2代目に進化。電子制御のエアサスペンションの採用や、自動車装備としては世界初となるミリ波レーダーを併用した衝突被害軽減ブレーキのプリクラッシュセーフティシステムをオプション設定するなど、高級路線を強化。さらに2005年には、3.3LV6ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを搭載したハリアーハイブリッドを追加し、国産プレミアムSUVで確固たる地位を築いた。

　そして2009年より、トヨタのプレミアムブランドであるレクサスがRXの日本導入を開始し、ハリアーは2013年にいったん幕を下ろす。これは、上述の通りもともとハリアーとレクサスRXが同じクルマだったための措置だった。しかし、これまでハリアーが築き上げてきた国産プレミアムSUVにおける強いブランド力を残してほしいという販売現場からの声に応えて、2013年12月には3代目ハリアーが登場。レクサスRXとの差別化を図るため、このモデルからハリアーは日本専売モデルとなった。ベースがRAV4となったため、レクサスRXと比べると車格が落ちてしまうのだが、ハリアーの人気は健在であり、安定した販売台数を稼ぎ続けた。

　そして、2020年6月に登場した、本稿の本題である4代目ハリアーは、トヨタのクルマ構造改革である「TNGA」を採用し、ボディの骨格から一新。搭載するパワートレインも、エンジンは高い熱効率を実現したダイナミックフォースエンジンとなり、WLTCモード燃費は2Lガソリン車が14.7〜15.4km/L、2.5Lエンジンのハイブリッド車が21.6〜22.3km/Lと、優れた燃費性能を実現している。また、先代モデルまではハイブリッド車の駆動方式は4WDのみだったが、新型ハリアーではガソリン車、ハイブリッド車ともに2WDと4WDが選べるようになるなど、ラインナップの充実を図っている。

「誰でも知っているSUV」という高いブランド力

　いよいよここから、2020年6月発売の新型ハリアーが大ヒットしている理由を挙げていきたい。

　まず1点目は「強いブランド力」だ。クルマに詳しくない人にあるクルマのことを説明するときには、過去に存在した有名なクルマを挙げて「●●のようなクルマだ」と説明することが多いだろう。そしてSUVを説明するときには、「ハリアーみたいなクルマだ」と回答されることが多いのだ。これは、まさに上述したような歴史を誇り、多くの人にハリアーという車名すなわちブランドが浸透しているためだろう。このことによって、同じトヨタのアルファード／ヴェルファイア、あるいはクラウンなどと同様、「SUVに乗りたい！」ではなく「ハリアーに乗りたい！」という指名買いに繋がっていく。したがって、トヨタだけでも現在6車種もSUV車が存在するにもかかわらず、月販目標の約14.5倍という受注を獲得できたのだろう。現在国産車で、ハリアーのように強いブランド力を持つクルマは数えるほどしかない。特にSUVがブームとなって各メーカーからさまざまなモデルが登場しても、ハリアーの1強体制は変わらないのである。

ベンツGLCやBMW X3、ボルボXC60よりもハリアーが売れるワケは絶妙な価格設定

　続いて、大ヒットする理由の2つめ、それは絶妙な価格設定だ。

　新型ハリアーの車両本体価格は、最も安い「2.0Sグレード2WD」の299万円で、「ハイブリッドZ“レザーパッケージ”グレード4WD」の504万円とは実に200万円以上の価格差がある。「S」グレードでも必要十分な装備となっているが、売れ筋は中間グレードの「G」以上だし、19万8000円のオプションである、ハリアー初採用の調光パノラマルーフを装着できるのは「Z」グレードのみ。この装備が欲しい人は必然的にZを選ばなければならない。この金額は国産車では確かに高額だが、輸入車SUVでは同価格帯のクルマが見当たらない。輸入車SUVのライバルとしてはメルセデス・ベンツGLCやBMW X3、ボルボXC60などが挙げられようが、価格差は上に100万円以上開いてしまう。となれば、強いブランド力もあり装備も充実し、さらに信頼できるトヨタのブランド力もあるとなれば、高所得ユーザーでもわざわざ輸入車に手を出すことは少ない。繰り返すが、それぐらいハリアーのブランド力は鉄板なのである。

外観内装ともに欧州プレミアム車にも引けを取らない高い質感

　そして、大ヒットする3点目の理由、それは高い質感の乗り心地である。

　筆者は残念ながら2Lガソリン車には乗車が叶わなかったが、ハイブリッド車の2WDと4WD、そして18インチホイールを装着した中間グレードのG、そして19インチホイールを装着した最上級グレードのZに試乗できた。

　流麗なルーフラインが特長のクーペライクな外観スタイルは、メッキパーツを効果的に配置し、上質さの演出は見事。派手すぎず品のよさが漂っている。インテリアでは、馬の鞍をイメージしたというセンターコンソールに注目が集まりがちだが、ソフトパッドの素材を配置し、シルバー加飾やウッドパネルをさりげなくあしらうなど、こちらにもさりげないオシャレさを感じる。デザインのよさや質感などは、輸入車に一歩も引けを取らないだろう。

　気になる走行性能だが、基礎から吸音材や遮音材を最適に配置したことで、静粛性が向上。クルマの挙動を安定させるために超低速域でもスムーズな動きを確保したショックアブソーバーを採用することで、段差を乗り越えたときの入力を和らげるだけでなく、振動の収まりも早くなっている。

　さらに高出力・低燃費を両立したハイブリッドシステムは、とにかくスムーズさが際立つ。筆者は、エンジンがかかった状態でも、メーターを見ていなければわからないほど音も振動も感じなかった。新型ハリアーの実力は、まさに新時代のSUVの名に相応しいほどに、高く仕上がっている。

新型ハリアーのベストバイは「ハイブリッドG」

　気になった点を挙げるとすれば、19インチホイールを装着した2WD車で、段差を乗り越えたときの入力の大きさと収束の遅さが若干気になった。この19インチホイール装着車は、タイヤから発生するロードノイズも大きかった。

　よって個人的に新型ハリアーのベストバイは、「ハイブリッドG」の4WD車。フラットライドな乗り味、シットリとしたハンドリング性能は欧州のプレミアムブランドと比較しても一歩も引けを取らないレベルとなっている。ハリアーを手に入れたユーザーは、「実にいいクルマを購入した！」と高い満足感を得られることだろう。

（文＝萩原文博／自動車ライター）