トヨタ自動車の「ハリアー」に、人気沸騰の気配がある。限定試乗会直後から、ハリアーに関する情報が巷に溢れている。ここまでヒートアップするとは、関係者の自分すら予想していなかった。市場の反応を見る限り、2020年のエポックなクルマとして刻まれることを確信する。
初代ハリアーのデビューは1997年だ。当時のSUV(スポーツ用多目的車)は、ともすればクロカン4WDの派生モデルとして扱われていた節があり、無骨さが目立っていた。そのSUVに高級感を盛り込むことで「都会的SUV」のジャンルを開拓したことで成功した。今でこそ、決して少なくないアーバンSUVの走りである。
そんなハリアーがフルモデルチェンジ。だがコンセプトは完璧に移ろいがない。キーワードは「Graceful Life」という。優雅でより豊かな人生を支えるモデルという。30代のビジネスエリートや50代のミドルエイジがターゲットだというから、都会派のツールを意識している。
試乗会でのプレゼンでは、こんな言葉が溢れていた。「確かなモノ」「新しいモノ」「これ見よがししない」--。いわば、「レクサスRX」までは求めないが、それへの憧れが感じられる。本物志向の強さがうかがえた。
トヨタ初のインテリジェントバックミラー(デジタルミラー)や、調光ガラスサンルーフなどの採用は、先進性の現れだろう。都会性の追求は、そこかしこに現れていた。試乗車に搭載されていた2.5リッターハイブリッドは、いわばトヨタの量販ユニットであり、完成度が高い。新技術によって熟成されていることは明らかだが、動力性能を声高に叫ぶような素振りはない。ごく控えめながら、必要な動力性能を込めているといった印象だ。発進はモーターに強く依存し、強い加速を求めればエンジンが加勢する。環境性能と動力性能を頃合いよくバランスさせている。
だが、これといった特徴もない。強く惹かれるほどのパワーユニットではないが、どこにも欠点がない。まさに都会派SUVに相応しい。操縦性も同様で、荒々しさとは無縁である。ハンドリングの切れ味を語るのも無粋であり、ましてタイヤが悲鳴を上げるような速度域を試す気にもあまりなれない。ごく平凡な操縦性なのである。
だがこれとて、決してネガティブなインプレッションではない。ピリピリと尖った部分を巧みに抑えることで、上質な走行フィールを演出しているのだ。これも同様に、強く惹かれるものではないが、どこにも欠点がないと言えるだろう。
とはいうものの、トヨタが積極的に展開しているTNGA新プラットフォームを採用しているから、乗り心地を優先していながらも操縦性は整っている。足回りを固めずとも、フットワークに破綻はない。
そう思って、あらためてドライビングに浸っていると、派手な突起を抑えたインテリアが心地いい。最近のうねりや突起を多用したデザインではなく、シンプルに質感だけで乗員を包み込む。これこそハリアーらしさなのだと思えた。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)