BMW「M235i xDrive グランクーペ」(BMW公式サイトより)
独BMWのコンパクトブランドである「2シリーズ」が賑やかなことになっている。「3シリーズ」や「5シリーズ」といった花形クラスに押され気味で、どこか“廉価版”的な扱いを受けていた、かつてのイメージは跡形もなかった。「M2コンペティション」や「2シリーズ・カブリオレ」がラインナップに加わった時期から、存在感を高め始めたのだ。
2シリーズには、その名も素っ気ない「2シリーズ・クーペ」がベースにあり、エンジンを強化した「M240iクーペ」と武闘派「M2コンペティション」と、さらにはルーフを取り払った「2シリーズ・カブリオレ」がラインナップされている。
一方でミニバン風の「2シリーズ・アクティブツアラー」があり、さらにシートを3列シートに増やすことで7人乗りとした「2シリーズ・グランツアラー」がある。そこに新たに「グランクーペ」が加わったのである。
グランクーペは、4ドアボディながらルーフの稜線をなだらかに傾斜させるなどして、スタイリッシュ度を高めたセダンのことだ。4シリーズと8シリーズにも展開されている。正統派セダンとは趣が異なり、都会派の香りがする。
これで2シリーズは、屋根のある/なしも含めて、2ドア、4ドア、5ドアがラインナップされたことになる。しかも、そのどれも趣味性の高い使い方が可能である。謹厳実直な性格も捨てきれないBMWのなかで、良い意味での“はずし”のシリーズが完成したといってもいいかもしれない。
しかも、である。今回のグランクーペは、FF駆動方式になったことが筆者を驚かせた。2シリーズ・クーペが伝統的なFR駆動であり、それをベースに上家を変えたのかと想像していたのは過ちであった。「1シリーズ」やミニクーパーのプラットフォームを拝借し、2シリーズとして展開したのがトピックである。つまり、2シリーズはボディだけでなく駆動方式もさまざまなのである。バリエーションの豊富さでは、シリーズ随一になった。
今回、筆者が試乗したのは、グランクーペとして用意されている2車種のなかでの攻撃的なモデル「M235i xDrive グランクーペ」である。ベースはFF駆動だが、4輪駆動化されている。搭載するエンジンも勇ましい。兄弟分の「218iグランクーペ」が直列3気筒の1.5リッターエンジンを搭載するのに対して「M235i xDrive グランクーペ」は、パワーもトルクも圧倒的に優れた直列4気筒ツインターボエンジンを搭載。排気量は2リッターである。最高出力は306psに達する。450Nmの最大トルクは、もはやスポーツモデルに域に達している。
それが証拠に、走り味は過激である。足回りは固く締め上げられており、フットワークは激しい。ステアリング応答性はスポーツカーのそれだ。FF駆動ベースであることで懸念されたアンダーステアが顔を出すことはほとんどない。これはほとんど「M2コンペティション」と呼んでもいいほど走りは熱いのである。「M3」のお株を奪うほどに感じた。
そう考えてみると、サイズが極端に拡大した新型3シリーズには、まだ「M3セダン」がラインナップされていない。誕生したとしても、サイズが拡大したことで、かつてのM3のような軽快なハンドリングが得られるかどうか怪しい。そうなれば伝統のM3の地位を奪うのは、この「M235i xDrive グランクーペ」なのだろうと想像する。それが許されるほど走りは攻撃的なのである。
しばらく2シリーズが話題の中心になりそうである。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)