トヨタ自動車の3代目「ハリアー」はほぼ国内専売モデルであったが、4代目ハリアーは北米市場での販売が計画されているとの情報である。北米市場で販売されるとなれば、今までの海外でのトヨタ車の販売の流れを見ると、中国市場でも販売される可能性は高く、事実中国市場でも販売されるのではないかとの情報がある。ここでは、新型ハリアーが北米や中国でもラインナップされるという前提で、その背景などを考察していくことにする。
北米ではハリアーとは名乗らないようなのだが、新型ハリアーを北米で販売するという背景としては、「カムリのSUV版」という位置づけを狙っているのではないかと考えている。SUVが小型トラックにカテゴライズされるアメリカでは、「カムリ」が乗用車販売でトップ争いを繰り広げており、2019暦年締め年間販売台数でもトップとなっている。
しかし、アメリカではすでに全新車販売台数におけるSUVの販売比率が4 割(日本の軽自動車並みに売れている)に迫っており、乗用車では販売トップのカムリだが、アメリカで販売されているトヨタ車のなかでの販売トップは、ダブルスコア近くの差をつけられて「RAV4」となっている。全体で見ても、ここのところ乗用車販売は前年比マイナスが続いており、前年比でプラスの続くSUV販売がアメリカでの新車販売を支えているといっていいだろう。
アメリカで人気の高いSUVだが、2列シートモデルはパーソナルユース、3列シートモデルはファミリーユースとユーザー層が分かれているとのこと。クライスラーがミニバンを開発し、世の中にその存在を広めたのだが、そのクライスラーのホームタウンでもあるアメリカでミニバンは、トヨタ「シエナ」、ホンダ「オデッセイ」、クライスラー「パシフィカ」、起亜自動車「セドナ」など、ラインナップ自体も少なく、人気も今ひとつ。今では“ママ向け”ユースとして、3列シートのSUVをミニバン代わりに使うのが一般的となっている。
アメリカでトヨタがラインナップするクロスオーバーSUVは、RAV4、「C-HR」「ハイランダー」の3車種。C-HRはもちろんだが、よく売れているRAV4も2列シートとなり、カジュアル色が強く、パーソナルユースを意識している。一方でハイランダーは3列シートとなり、新型になったばかりだが、それでもファミリーユース色が強く残っている。
日本ではサイズの大きさが目立つカムリだが、アメリカでは日本のカローラ的なポジションとなり、“お父さんの通勤用のクルマ”という立ち位置が強い。つまり、アメリカでのトヨタ車のラインナップにおけるSUVには、カムリ的な立ち位置となるモデルが存在しないといえるのである。RAV4が今はカムリ的ユースを担っているようにも見えるが、RAV4は学生の通学用など若年層向け色が少々強いので、もう少しラグジュアリーで落ち着きのあるパーソナルSUVが欲しいところのように見える。
つまり、ややアッパーな年齢層向けのパーソナルクロスオーバーSUVとして、車名は変わるにしても、新型ハリアーのラインナップはトヨタの北米販売にとっては強力な“助っ人”になるものといってもいいだろう。
米国ではカムリ→レクサスESへの乗り替えが多い
南カリフォルニアの新車販売ビジネスに詳しいA氏によると、以下のような事情があるという。
「カムリは、サラリーマンでいえば課長クラスの中間管理職の人がよく乗っています。そして、そのような人が出世して部長になると、カムリベースとなるレクサスESへ乗り替えるケースが目立ちます。アメリカではローンの審査方法などもあり、結果的に“身の丈”に合ったクルマしか買えません。勤める企業の大小もありますが、部長となればレクサスのローン審査もパスし、ESとはいえ、晴れてプレミアムブランドとなるレクサスの新車に乗れることは、社会的ステータスのアップを暗に見せつけることもできるのです」
BMWやメルセデスベンツにはESに相当するモデルはなく(割安感のあるFFの大型セダン)、カムリだけでなく、ライバルの日産自動車「アルティマ」などからの乗り替えも多く、レクサスのなかでは売りやすいモデルの1台とのことであった。
アメリカでハリアーがデビューすれば、ハリアーからレクサスRXへの“ステップアップ乗り替え”をしてくれるユーザーも多くなることも予想できるので、レクサスブランドの販売台数アップにも少なからず貢献する可能性は高い。
中国市場への投入については、ここ最近は元気のない中国の新車販売市場だが、日本に比べればはるかに消費行動は旺盛。さらに圧倒的にSUV人気が高いので、新型ハリアーの投入でラインナップ数が増えるのはウエルカムに違いない。
圧倒的な国内販売シェアを誇るトヨタでも、完全な日本国内専売モデルは、新車販売市場の縮小傾向の続く現状では、なかなかラインナップは難しい。その意味でも、新型ハリアーが世界市場に本格進出していくのは当然の流れともいえるのだ。3代目では事実上国内専売モデルであったハリアーだが、4代目となった新型ハリアーが世界市場にデビューしたときには、世界販売がどこまで広がるかも注目していきたい。
(文=小林敦志/フリー編集記者)