「私たちが普段歩いたり、自動車で走ったりする道路は、道路法という法律でその定義が定められています。道路法に定められた道路は、簡単に廃止することができません。それは道路渋滞などの混乱をもたらすだけではなく、道路は防災にも大きく関連しているからです。
そうした大きな公益性を有している道路を廃止することはもちろん、付け替えることだって容易ではありません。それほど行政は道路をインフラとして重要視しています。だから、民間の都市開発事業者がいくら大規模開発といった理由を掲げようとも、行政がやすやすと道路を“明け渡す”ようなことはあり得ません。これまで、道路が原因で大規模開発を泣く泣くあきらめてきた都市開発事業者も多いのです。それなのに、森ビルがどうやって区道の付け替えを可能にしたのか、それが不思議でなりません」
築地市場の跡地も森ビルが買収か
森ビルがやってのけたのは、今回の銀座における道路の付け替えにとどまらない。ほかの不動産事業者ならば不可能と思われるような案件を、これまでにも次々と実現させてきた。
14年に開業を果たした虎ノ門ヒルズは、環状2号線の真上に立つ。従来、道路の上空にこうした建物を建設することは法律的に不可能だった。しかし、1989年に道路法が改正されて、立体道路制度が創設された。これは道路の上空にもビルなどを建設することを可能にした制度で、東京都などは都市開発が活性化すると期待されている。
環状2号線の上に立つ虎ノ門ヒルズも、立体道路制度を活用して建設されている。立体道路制度は森ビルや虎ノ門ヒルズのために創設された制度ではないが、ほかに活用された事例は、バスタ新宿や北九州モノレールの小倉駅といったように公共施設が大半を占めており、虎ノ門ヒルズのように民間の商業施設に活用される事例は多くない。
森ビルは立体道路制度を巧みに活用し、東京の一等地に虎ノ門ヒルズを実現させた。そうした森ビルの“実力”に、都市開発事業の他社も舌を巻く。同業者からは、「立体道路制度は“森ビル”のためにできた制度」といったやっかみも聞こえてくる。
また、森ビルは虎ノ門エリアを国際新都心にすべく重点的に開発することを発表した。森ビルの意気込みに、東京メトロや独立行政法人都市再生機構も動かされることになり、日比谷線の霞ケ関駅-神谷町駅間の虎ノ門エリアに新駅がつくられることも決定した。まさに、森ビルによって東京の地下鉄までも変貌することになる。