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トランプ氏の米国第一主義は、米国民の生活苦と企業のコスト負担増の悲惨な結末を招く

文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授
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 だが、トヨタ自動車のメキシコ工場建設を批判するツイートや今回の記者会見を見る限り、トランプ氏の頭の中では、どうも国境税は貿易不均衡是正の手段に置き換わっているようだ。貿易赤字の削減がアメリカ国内の雇用増加に結びついているので、トランプ氏の認識では、国境税は保護貿易的手段として位置づけられている。

トランプ=ケインズ型重商主義が直面する困難

 さて話を戻そう。アメリカ経済が完全雇用か完全雇用に近い水準だと仮定しよう。ちなみに筆者の認識では、アメリカ経済は完全雇用ではないが、それにきわめて近いものだ。

 このとき、トランプ=ケインズ型重商主義は困難に直面する。完全雇用までは失業が減少することで、アメリカ国民の経済的な満足度も上昇するだろう。しかし他方で、国内で利用されるさまざまな資源(生産に利用する財やまた消費財)は割高になってしまう。なぜなら安価な資材や消費財を海外から輸入する際に、国境税分をアメリカの生産者と消費者は負担しなくてはならないからだ。

 経済が完全雇用に近い状態であれば、雇用増加のメリットよりも、はるかにアメリカの国民(生産者と消費者)の負うデメリットは増加するだろう。雇用は大して増えないのに、他方で食料品などさまざまなモノが値上がりしていく、そんな事態が生まれてもおかしくない。

 また、企業は割高になった生産コストを負うので、海外企業との「国際競争力」を次第に失っていくだろう。したがって実質的な生活苦が増す一方で、大して雇用は増えない。これが記者会見からみえてきた、トランプの経済政策の帰結である。まさに「悲惨」の一言である。

 現在のアメリカの経済政策では、雇用の最大化と物価の安定(すなわち実質的な生活の安定)は、FRB(米連邦準備制度理事会)が担っている。リーマンショック以降の経済危機をなんとか「回復」といえるレベルまでに引き上げてきたのは、この金融政策中心の政策フレームの貢献である。仮にトランプ氏が国内での完全雇用がいまだ達成されていないとするならば、FRBと政府が協調して、よりいっそうの金融緩和と財政拡張に努めるべきである。

 実際に、トランプ当選直後に市場は急落したが、その後上昇に転じたのは、トランプ氏の経済刺激政策が財政政策主導だと解釈されたことに大きく依存している。今回はこの期待を大きく裏切ったことになろう。

 ただ、トランプ政権の経済政策はまだ実行以前だ。その姿が本当にはっきりするのはまだしばらく後のことである。とはいっても、トランプ政権が保護貿易的色彩を強めることは、アメリカ国民にとっても、また世界経済にとっても好ましくはなく、その結果は悲惨なものになるだろう。
(文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授)

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