たばこの世界再編の最終章の幕が上がった。英たばこ大手のブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)は1月17日、米2位のレイノルズ・アメリカンを494億ドル(約5兆6000億円)で買収することで合意した。すでに42.2%分の株式を取得済みで、残り57.8%分を買い取り、世界首位の米フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)に対抗する。BATの大型M&A(合併・買収)で新たな“たばこの巨人”が誕生する。
当然、世界第3位の日本たばこ産業(JT)の立ち位置は難しくなる。JTはM&Aで「成長するための時間を買った」としてきた。1999年に米RJRナビスコの海外たばこ事業(RJRI)を傘下に収め、2007年には英ギャラハーを買収した。
買収額はRJRIが9400億円、ギャラハーは2兆2500億円。それぞれの時期の日本企業の企業買収額としてはいずれも最高だった。3兆円超の海外M&AでJTは世界3位のたばこメーカーに躍進した。
JTの前身は、日本専売公社。現在も財務大臣が筆頭株主で33.3%を保有している。典型的な内需型企業でグローバル化を担えるような人材はいなかった。そこで5代目社長の木村宏氏が日本人に依存しない経営に転換した。これが海外のたばこ事業が稼ぎ頭に生まれ変わる契機となった。
JTのグローバル戦略では、スイスのジュネーブに本社を置くJTインターナショナル(JTI)を「世界本社」と位置付けている。16年12月期のたばこ事業の売上収益(売上高)は、海外が1兆1992億円、国内が6842億円だった。いまや「世界本社」のJTIにぶら下がる「ローカル本社」がJTという構図なのだ。
この間、たばこ業界の再編が進んだ。89年、米国のたばこ訴訟で総額2460億ドル(25兆円)を支払うことで、フリップス・モリスやRJRなど米国のたばこ大手と46州が和解した。天文学的な賠償金を払わねばならなくなり、たばこ会社の合従連衡が加速した。
06年に世界の有力なたばこ会社は10社から6社に減った。現在はフィリップ・モリスとBATの2強による寡占化が一段と進んでいる。
JTは3兆円の巨額買収で「のれん代」が重荷になっている。それでも2強に対抗するためには次の大型のM&Aを仕掛けなければならない。考えられるのは、世界4位の英インペリアル・ブランズの買収であるが、それには独占禁止法の壁がある。ギャラハーを傘下に持つJTは、インペリアル・ブランズを合併すると英国たばこ市場でのシェアが8割を超えてしまう。独占禁止法の絡みもあって、新たな大型案件は見つけにくいのが実情だ。
JTは新興国・発展途上国に活路を求める
JTは発展途上国をターゲットに考えている。16年、500億円を投じエチオピアのたばこ専売会社の株式を40%取得した。それ以前にも、11年にスーダンのたばこ会社を350億円で買収した。いずれも“落ち穂拾い”だ。
東南アジアの需要はかなり見込めると計算している。日本のたばこは、アジアではブランド力がある。「キャビン」の生産をやめて「ウィンストン」に統一するなど、ブランド力の強化でアジア市場を攻めようとしている。
もうひとつ、新たな成長領域として有望視されているのが、灰と煙が出ない加熱式たばこだ。紙巻きたばこに比べてタールが少ないことが人気となり、世界首位のフィリップ・モリスの「アイコス」が市場をほぼ独占している。
JTは加熱式たばこでも出遅れが否めない。「プルーム・テック」を現在は福岡市とインターネットのみで限定販売しているが、6月以降、東京都内の一部で販売する。年内に都内全域に広げ、18年上半期には全国展開を考えている。供給体制を整えるため、静岡県の工場に500億円の投資をする。問題は価格をどこまで下げられるかだ。
M&Aと加熱式たばこの2本柱がうまくいかないと、JTの前途は厳しい。株価は2月7日に3607円の昨年来安値をつけ、反転の兆しはない。
会長のポストは財務事務次官OBの指定席だ。現在の会長は14年6月にその椅子に座った丹呉泰健氏。元財務事務次官の勝栄二郎氏が、インターネットイニシアティブの社長を辞任してJT会長になるのではないかとの観測がある。
(文=編集部)