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ドライブインシアター、絶滅の危機からブーム再燃?映画館とは違う魅力で大盛況の舞台裏

文=山田剛志/清談社
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ドライブインシアターの様子

 駐車場などの広い敷地に巨大なスクリーンを設置し、観客は車に乗ったまま映画を鑑賞することができる「ドライブインシアター」。日本には1960年代に上陸し、バブル期には多くのカップルが詰めかけるなど大流行したが、シネマコンプレックス(複合映画館)の普及によって徐々に衰退し、今や絶滅の危機にあった。

 しかし、コロナ禍で映画館が苦境に陥る中、3密を回避できるドライブインシアターが再び脚光を浴びている。いくつかの専門業者が立ち上がっているが、中でも活発な活動を展開している「OUTDOOR THEATER JAPAN」の代表を務める綱島大輔氏に話を聞いた。

「僕はもともと音楽ライブや野外イベントを手がけていて、そういった会場で使うために、バルーン型の大型スクリーンを開発しました。そのスクリーンを使えば全国どこでも映画が上映できるなと思い、出張野外上映会のようなイベントを手がけることになったんです」(綱島氏)

「映画館のない街に映画を届ける」をコンセプトに2017年から野外映画イベントのプロデュースをスタートすると、意外な需要の多さに驚いたという。

「シネコンが増えたことで全体のスクリーン数は増えているんですが、小さな独立系の劇場が淘汰されてしまい、街に映画館がないというエリアもたくさんあるんです。そのような地域にスクリーンを持っていって上映会をすると、特に年配の方が喜んでくれるんですよね」(同)

 この上映会事業は順調だったが、今年に入ってコロナの影響で予定されていたイベントがことごとく中止に。そんな状況を打開する起死回生のアイデアが、ソーシャルディスタンスを保ったまま大スクリーンで映画を鑑賞することができるドライブインシアターだった。

「『PR TIMES』という媒体で、毎年エイプリルフールに嘘のプレスリリースを配信するというキャンペーンをやっているんですが、今年は嘘ではなく『夢』を語るという趣旨でした。そこで『ドライブインシアターで47都道府県をまわる』という夢を配信したところ、予想をはるかに超える反響があり、実現に向けて動き出すことになりました」(同)

 何もない駐車場や広場にドライブインシアターを設置するのは大変に思えるが、綱島氏が生み出したシステムは「設営と撤去は極めて簡単で、コストもかからない」という。

「私たちが用いているバルーンスクリーンは、空気を入れて膨らませれば400インチという映画館並みの大きさになりますが、たためばワゴン車に入るくらいコンパクトなサイズになるので、全国どこでも持ち運びが可能です。さらに、設営と撤去もスタッフ2名で30分弱でできる。万が一、風などでスクリーンが倒れても、やわらかいバルーン素材でできているので事故の心配もありません」(同)

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 音声はトランスミッターを使って車内のFMラジオから流れる仕組みなので、イベント会場は静寂に包まれており、近隣住民に迷惑をかけることもないという。

映画館とは違う魅力

 これまでに綱島氏がプロデュースした愛知、東京、北海道、長崎、福島、千葉の6カ所でのドライブインシアターイベントはどれも大盛況。特に、東京サマーランドで行ったイベントは50台限定にも関わらず、その何十倍もの申し込みが殺到したという。従来のメイン層だったカップル客だけでなく、ファミリー層や、ドライブインシアターに郷愁を覚える50~60代の中高年も多く集まり、客層は男女問わず幅広いのが特徴だ。

 コロナ禍とはいえ、ネット配信サービスを通じて多くの映画が自宅で観られるにも関わらず、なぜこれほど多くの人が時間をかけてドライブインシアターに詰めかけるのか。

「お客さんに話を聞くと、自宅で簡単に映画が観られるからこそ、あえて特別な環境で映画を体験したいという声が多かったですね。イベント的なコト消費を求めているというか、今だからこそ『わざわざ行って、体験する』ことが尊いものになっているのだと思います」(同)

 さらに、ドライブインシアター再評価の背景には、「現在の映画館では考えられない自由な鑑賞スタイルが許される」という点も関係していると推測する。

「車の中では、飲食をするのも話をするのも自由ですから。ドレスコードもないので、パジャマ姿で来たご家族もいました。車内での過ごし方もそれぞれで、子どもたちが運転席と助手席に座って映画を観て、親たちは後部座席で本を読んだりして過ごす、というスタイルも見られました」(同)

 コロナの影響で「わざわざ外出して体験することの価値が高まった」ことに加え、「一般の映画館であればマナー違反となるようなことも含めて、自由に映画を楽しむことができる」という点が支持されたことで、ドライブインシアターの需要が高まっているのだ。

マネタイズが難しいという課題も

 まさに時代が求めている業態であり、将来性がある魅力的なビジネスに見えるドライブインシアターだが、綱島氏いわく「現状ではドライブインシアターで利益を出すのは難しい」という。

「上映する作品は権利を持つ配給会社さんから使用許可を取るのですが、その許諾料がかなり高額なんです。さらに、権利関係をクリアするのが難しく、上映作品を自由に選べないことも多い。現状では配給会社の中にドライブインシアターの担当部署もないので、さまざまな許可に時間がかかります。

 そのため、スポンサーがついていたり、何かのイベントと共催する形で映画を上映する場合は黒字になりますが、お客さんからのチケット代だけでイベント費を回収するのは難しいですね」(同)

 現状では収益化が難しいドライブインシアターを興行として定着させるためには、新たなビジネススキームが必要になるという。

「会場で販売する飲食物を充実させるなど、プラスアルファの部分で実益を出していきたいですね。また、他ジャンルとのコラボレーションによって、映画好き以外の層も取り込んでいきたいと思っています」(同)

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 OUTDOOR THEATER JAPANでは、ドライブインシアターの新たな試みとして、日本初の映画と花火のコラボイベントを8月29日に千葉で開催、映画の上映後には映画に使われた音楽とシンクロさせた花火を盛大に打ち上げた。さらに、人気ミュージシャンをゲストに迎え、トークショー&ミニライブを行った後に、ゲストが選んだ映画を上映するというイベントも予定している。

「ドライブインシアターが一過性のブームではなく、今後も文化として根付いていくためには、業界の常識にとらわれない発想が必要だと思います。今後も、映画業界や地方自治体などと協力しながら、夢を実現していきたいですね」(同)

 コロナが収束し、映画やイベントが普通に開催できるようになってからも、ドライブインシアターは古くて新しいカルチャーとして生き残っていくことができるのか。数年後に「そういえば、コロナのときにドライブインシアターが復活しかけたよね」と再び“なつかしネタ”にならないように、綱島氏の挑戦は続く。
(文=山田剛志/清談社)

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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