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事故物件&怪談、なぜ今ブームに?幽霊よりも人間の異常さを語る「人怖」が大人気

文=沼澤典史/清談社
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事故物件 恐い間取り | 8月28日(金)全国公開」より

 イベントや書籍などでブームが続いている「怪談」だが、最近はYouTubeやポッドキャストなど新たなメディアでも発展を遂げ、さらなる盛り上がりを見せている。そこで、『事故物件怪談 恐い間取り』に続き『事故物件怪談 恐い間取り2』(ともに二見書房)を上梓し、「事故物件住みます芸人」として活動する松原タニシ氏に、怪談ブームの理由や現代の怪談事情などについて聞いた。

人間の異常さを語る「人怖」怪談が人気に

 怪談と聞いて頭に浮かぶのは、稲川淳二の話をはじめとする幽霊が登場するものだろう。しかし、昨今は自殺や孤独死があった事故物件、人間の異常さを語る「人怖(ひとこわ)」というジャンルが人気だ。

 松原氏は、テレビ番組『北野誠のおまえら行くな。』の企画で2012年から大阪の事故物件に住み始め、これまでに大阪、千葉、東京、沖縄と10軒の事故物件を渡り歩いている。そして、「事故物件住みます芸人」という独自の地位を築いたパイオニアだ。

「現在は、大阪、東京、あとは沖縄に2軒、事故物件を借りています。大阪の物件はおそらくトイレで孤独死、東京の物件では50代男性が首吊りしたと聞いています。沖縄の物件は明確な事故物件ではないのですが、周りをお墓に囲まれたマンションと、“おばけマンション”と呼ばれている物件を借りています」(松原氏)

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『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房/松原タニシ)

 今のところ、それらの物件では特に怪奇現象は起きていないという。松原氏は2018年に怪談トーナメント「OKOWA」(おーこわ)を立ち上げたが、それはどんなものだろうか。

「OKOWAは心霊だけではなく人怖話もひっくるめて、あらゆる怖い話をする大会で、YouTubeなどのネットメディアを通じて認知度が上がっていきました。多くの怪談系YouTubeチャンネルがありますが、OKOWAの特徴は従来のジャンルに縛られないことだと思います。視聴者と語り手の両方に、怪談というものの間口が広がっている印象ですね」(同)

 この「間口が広がっている」現象について、松原氏は「怪談の転換期」と表現する。幽霊だけではない怖い話が、多くの人をひきつけているのだ。

社会不安が増大すると怪談が流行る?

 さらに、その間口を広げているのは語り手側のスタンスだ。

「そもそも怖がらせるつもりがない語り手も増えています。昔は、いかにおどろおどろしく怖がらせるかに主眼を置き、語り手がそういう口調で話したり、番組側もそういう演出をしたりすることが多かったですが、今は事実を淡々としゃべる人が多い。怖がらせようとしないテンションで話して、でもちゃんと怖い。そういうスタンスとスタイルが、より受けているのかと思います」(同)

 バリエーションが広がった現代の怪談。その中でも人気なのは、松原氏のような事故物件もの、またルポライターの村田らむ氏が話す特殊清掃などの仕事で感じた人間の異常さなど、語り手が実体験した怖い話だ。

「みんな、『自分自身も体験者になるかもしれない』という身近な恐怖に興味があるのかなと思いますね。『自分は体験したくないけど、知っておきたい』という、ある種、身を守る方法のひとつとして聞いてくれているのかなと。ネット社会になって、テレビからの情報だけではなく、自分から怖い話を探せるようになったのも人気の要因でしょうね」(同)

 さらに、社会的な不安の増大も人が怖い話に興味を抱く要因になる、と松原氏は語る。

「社会的に先行きが見えないと不安ですが、だからこそリアルな怪談が求められるのだと思います。不安だから身を守りたくなるわけで、事故物件や孤独死などの嘘じゃない怖い話が求められるのかもしれないですね。また、ネットが普及したことでファクトチェックをしたがる人も多く、嘘の怪談はすぐにわかってしまいます。そのため、信頼できる怖い話の需要が高まっているのではないでしょうか」(同)

 先行きの見えない不安な社会状況は、新型コロナウイルスの感染拡大でさらに混迷を極めている。

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『事故物件怪談 恐い間取り2』(二見書房/松原タニシ)

「コロナ時代に怪談が求められるかどうかは、まだわかりません。ただ、怪談は配信とイベントの落差が少ないんです。たとえば、ミュージシャンのライブは現場で見たほうがより楽しめますが、怪談はネットでも楽しめるし、音声だけでも楽しめる。そのため、怪談は外出自粛を求められるコロナ下においては強いコンテンツだと思いますね」(同)

 今や世界中がコロナという見えない敵におびえる日々を過ごしているが、コロナ禍を経て、怪談はどのように変容するのだろうか。

「東日本大震災の後もそうでしたが、感動系の怖い話は増えると思います。それは不安な現実から逃げたいという需要が増えるためです。怖い怪談だけでなく、人の心を和らげるような怪談が多くなるのかなと思います。たとえば、亡くなったおばあちゃんが出てきて助けてくれる、というような、心霊ものだけど感動する話ですね」(同)

幽霊が出る事故物件は部屋が“逃げていく”?

 事故物件に住んでから、松原氏の周りでは不思議な現象が起こり続けているという。

「2年前に『事故物件怪談 恐い間取り』という本を出したのですが、買った人から『勝手にドアが開くようになった』『置いた覚えがないのに、目覚めると枕元に本が移動していた』という報告があります」(同)

 8月28日には、この『事故物件怪談 恐い間取り』を原作にした映画『事故物件 恐い間取り』が公開される。しかし、そのプロモーションイベントに自宅である事故物件からリモートで出演した際、パソコンの画面がフリーズする異常が起きたという。

「もう慣れましたね。ただ、常識では計り知れない現象があると、それだけで希望になるし、それを楽しめる方が生きていて窮屈じゃなくなる。書籍の不思議な現象については、それも含めて楽しんでもらえたらと思います。逆に、何かが起きたときに、それを事故物件のせいにするのもよくない。僕は、事故物件そのものが悪いのではないと思うようにしています」(同)

 そんな松原氏は、今後の目標についてこう語る。

「ちゃんと幽霊が出る事故物件に住みたいです。そういう物件を借りようとしても、取り壊されていたり住めなくなっていたりと、部屋が“逃げていく”んですよ。怪奇現象や幽霊に恐怖心はないので、今は何が起きるのか楽しみでしかないです」(同)

 コロナ禍で迎えている今年の夏は、お盆の帰省も自粛が相次ぎ、一斉休校のしわ寄せで子どもたちの夏休みが短くなるなど、誰も体験したことのない異常な夏であることは間違いない。そんな日々には、自宅でゆっくり怪談を楽しんでみてはいかがだろうか。

(文=沼澤典史/清談社)

清談社

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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