「Go To Eat(イート)キャンペーン」でオンライン飲食予約利用者へのポイント付与が10月1日から始まる。前回記事で、事業委託先に469億円の税金が投入されることなどGo To イートの問題点について触れたが、今回は、消費者にも飲食店にとっても、ありがたくないキャンペーンになりそうな「オンライン飲食予約」について検証する。
Go To イートでは食事券も利用されるが、事業を委託された事業者には、事務局設置、食事券印刷、回収、代金支払い、広告宣伝、人件費等の必要経費が発生する。各地の商工会議所や商工会が事務局の母体になるが、人手も含め、多くは新しい設備や仕組みづくりが必要となる。当然ながら、人口の多い都道府県ほど経費は膨らむ。第一次募集と第二次募集を合わせて、国が支出する予算は約207億円。47都道府県がすべて参加するとして、1都道府県当たり約4億4000万円が税金から支給される。
一方、オンライン飲食予約の場合は、ほとんどが「既存のサイトの運営に国のキャンペーンを追加するだけ」となり、広告宣伝や飲食店の募集も自社サイト内で済む。オンライン飲食予約の予算は85億円、委託先は13社あるので、平均すると1社あたり約6億5400万円。1都道府県より、1社あたり2億1400万円も多く税金が支給される。オンライン飲食予約の各委託事業者の費用については、農水省が審査しているが、詳細は公表されていないのでわからない。しかし、食事券よりかなり優遇されているのではないかという疑問は残る。
食事券の事務局の母体となるのは、各都道府県の商工会議所と商工会である。両者とも非営利経済団体であり地域経済の活性化等の役目を担っている。
一方、オンライン飲食予約は、13社すべてが民間企業である。なかには大手予約サイトの運営事業者もあるが、たとえば「ぐるなび」「ホットペッパーグルメ」「一休.comレストラン」は、それぞれ楽天、リクルート、ヤフーの関連会社である。どの会社も最低数億円の収入になるだろう。
それだけではない。この事業では、サイト運営会社は税金を使って、新規顧客(飲食店)を獲得できる可能性がある。事業継続期間中だけとはいえ、税金を使って飲食店の募集ができる。キャンペーン期間中は、送客手数料(サイトを通じて飲食店に顧客を送りこむことへの見返り報酬)を徴収することができる(無料のサイトもある)。キャンペーンが終了しても、飲食店がサイトに登録し続ければ、送客手数料以外に基本手数料も徴収することができる。サイト運営会社にとって、Go To イートは、まさに「願ったり叶ったりのおいしい事業」なのだ。
税金の不正利用が起きる懸念
一方、この事業は、飲食店にとってはありがたいキャンペーンとは限らない。
まず、どのくらいの規模のキャンペーンなのか考えてみよう。給付金が767億円なので、毎回1人1000ポイント(1000円)付与されると、合計で7670万回付与される。言い方を変えると、延べ7670万人しか1000円を獲得することができないのだ。やり方によっては、同一人物が何回も獲得できる可能性もある。
現在のグルメサイトで、オンライン予約を利用している消費者はどのくらいいるのか定かではないが、コロナ以前は、月間1億人ともそれ以上ともいわれている。仮に、少なく見積もって月間述べ7670万人が、Go To イートのオンライン飲食予約を利用すれば、キャンペーンは終了するのだ。
おそらくオンライン飲食予約を利用する飲食店は、人数予約が欠かせない宴会や飲み会に使われる居酒屋などが多いだろう。もしも、すべての飲食の予約が10人分だと仮定すれば、予約者である767万人が予約して飲食した時点で終了する。おそらく同一サイト内での同一人物の重複予約は認められないだろうが、仲間が10人いれば、それぞれが予約を入れれば重複することはない。
では10月1日に一斉に予約が入りキャンペーンは終了するかというと、そうはならない。一つは、ポイントが付与されるのが1カ月程度先になりそうなのだ。翌月の10日前後になる可能性もあり、そうなると、10月の予約と利用分のポイントは、11月10日前後に付与される。その場合、初めてのポイントを使えるのは、早くて11月ということになる。その後に予約して利用しても、そのポイントは12月にしか使えない。
もう一つの理由は、そもそも7670万人も利用できるほど飲食店の店舗数はない。2016年のデータでは、全国のホテル・飲食店は約70万事業所(店舗)しかない。すべての店で1カ月間に110席利用されれば7700万席になるが、それはとても考えられない。
こうした現状で、なんとかポイントを獲得しようとすると、大勢の仲間で利用できそうな飲食店をできるだけ多く予約するしかない。10人で10カ所の飲食店を1カ月のうち20日間申し込む。時間を変える手もある。そのうち、10回の予約が取れたとする。ポイント付与は、1回の予約で最大10人である。10人で予約し利用すると、合計1万円が予約者に付与される。10人それぞれが10カ所予約し利用すれば、仲間10人で10万円のポイントが獲得できる。毎週2~3回は飲み会をするような人たちには、こんなことも可能かもしれない。
そうしたなかで飲食店側が一番気を付けなければいけないことは、不正利用だ。たとえば、10人の予約客のうち9人しか来店しなかった場合、当然、1人キャンセルの旨をサイト側に通知しなければならない。そうしなければ、予約者に10人分のポイントが付与されてしまう。店側が10人予約を9人に修正しなかったり、「遅れてくるから」と言われて、信用して10人のままサイト側に来店確認を通知したが、結局来店しなかったとなると、店側やサイト側にほとんど損失はなくても、結果的には税金を消費者に不正に支払ったことになる。
顧客と店側が共謀して行う意図的な行為はもちろん、忘れてしまったという単純ミスでも、税金の不正利用に違いはない。その分、正しく利用しようとした人にポイントが付与されなくなる。
不正防止は困難
しかも、この不正を摘発するのは非常に難しい。1回の来店人数の不正やサイト側への通知(来店確認人数)の不正が起きたかどうかを第三者が見極めるのは、非常に困難な作業となる。ましてや、意図的でない不正の場合は、不正した本人も気が付かないことがある。意図的でなくても、間違ったことをすれば税金の不正利用になる。
さらに、この事業の主催者である農水省は事業者に対して不正防止対策を義務付けている。農水省が、委託事業者に示した仕様書には、不正対策防止の項目の中で、次のように明記されている。
・ウェブ予約し、来店確定があった場合にのみポイントが付与されるようにするものとし、キャンセル処理がなされなかったために自動的にポイントが付与されるミスが発生しないよう、対策を講じるものとする。
・消費者が行う不正に対する対策を講じるものとする。
・飲食予約サイト事業者内において発生し得る不正を防止するため、これに対する対策を講じるものとする。
こうした対策は、たとえば、少なくともサイト事業者が各飲食店に監視員を派遣し、監視員自ら来店人数の確定をするなどしなければ防ぐことは難しいだろう。監視員を派遣したとしても、店の忙しい時間帯に正確に人数をカウントできるのか、遅れてくるといった顧客を正しく判定できるのかといった不安はある。
国も事業者を選定する際、企画提案書の審査をしている。評価項目の一つに「実施体制の適格性」はあるが、不正防止対策をどこまで審査したかは不明だ。すべてが「性善説」に基づいて実施されているような気がしてならない。
誰のためのGo To イートなのか
そもそも多額の税金を使うGo To イートは、なんのためにやるのだろう。その目的について農水省は「甚大な影響を受けている飲食業に対し、期間を限定した官民一体型の需要喚起を図るもの」だとしている。つまり、飲食店を救済したいのであって、サイト運営会社を救済したいわけではない。
しかし、オンライン飲食予約は、経済効果は乏しく混乱を起こすだけであって、飲食業の需要を喚起するには程遠い結果となる可能性がある。不正利用があったのかなかったのかも、うやむやにされる可能性がある。結局、一部のオンライン予約に慣れている消費者とサイト運営会社だけが得するキャンペーンになるだろう。
Go To トラベルは、すべて旅行会社経由で実施され、旅行会社と高級ホテル・旅館だけが潤い、中小ホテルや旅館がキャンペーンの恩恵に預かっているとはとてもいえない状況である。これから始まるGo To イベントも、Go To商店街も、中間業者と一部の大手事業者だけが恩恵を受けるようでは、誰のためのキャンペーンなのかわからなくなる。
結局、一部のオンライン予約に慣れている消費者とサイト運営会社だけが得するキャンペーンになるだろう。国やサイト運営会社、そして飲食店には、総額2003億円もの予算が投下され全国規模で実施するキャンペーンであることを、くれぐれも肝に銘じて取り組んでほしい。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)