野球の国別対抗の世界大会、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が始まった。過去の大会に比べると熱気はいまひとつだが、日本代表が勝ち進めば盛り上がるはずだ。
このWBC出場国に、捕手が着けるマスク、プロテクター、レガースや、打者が手足につけるアームガードやフットガードといった防具を提供する日本メーカーがある。従業員数1ケタのベルガードファクトリー(本社:埼玉県越谷市)だ。今大会では米国、カナダ、キューバ、ドミニカ、韓国、オランダ代表の6カ国に提供し、有名選手も愛用する。
実は同社の前身のベルガードは、2012年に経営破綻した。だがひとりの社員が商標を引き継ぎ、4カ月で新会社を立ち上げた。会社設立以来、地道だが増収増益を続けている。今回は同社の活動を通して、大手に負けない小企業の戦術を分析してみよう。
【戦術1 主力の「防具」は細部にこだわる】
なぜ、一度倒産した小さなメーカーが、これほど各国に野球用具を提供できるのか。それは長年培った技術ノウハウがあり、選手からの信頼が厚いからだ。前身の会社に30年勤務した後、新会社を軌道に乗せた社長の永井和人氏は、次のように話す。
「前の会社で最も定評があったのが防具の機能性で、野球以外では警備関連企業にも防具を納品していました。今の会社もその伝統を受け継ぎ、防具以外はグローブ、ミットが中心です。バットやスパイクなども手がけますが、大手メーカーのように幅広い商品を扱う気はなく、自社の得意分野に絞っており、丁寧な製作を心がけています」
同社の防具はすべて日本製だ。熟練職人が手づくりで選手個人の使い勝手に合わせて微調整する。基本デザインはあるが、要望に応じて防具表面にさまざまなデザインも施す。WBCで防具を提供する代表チームのうち、韓国代表には国旗も入れた。ユニフォームや帽子に国旗を入れるのは珍しくないが、防具にも入れる時代となった。
永井氏は、前の会社では企画と製造の両方の職種を手がけ、対外的な交渉役も担った。その人脈も、現会社に生かされている。ちなみに日本のプロ野球で、昔は単色だった捕手のプロテクターをカラー化する動きにも同氏がかかわった。きっかけは、往年の名捕手で当時ヤクルトスワローズ(現東京ヤクルトスワローズ)監督の野村克也氏からの要望だったという。
「ヤクルト球団から『投手が投げやすいよう、プロテクターの真ん中を黄色に変えてほしい』と言われたのです。それを契機に、プロテクターの周囲を違う色で縁取りしたり、筋肉を思わせるデザインにするなど、バリエーションを広げて訴求しました」(同)
現在は同球団の防具を担当していないが、新会社でも以前の同僚だった熟練職人を雇用したため技術は失われておらず、国内ではベースボール・チャレンジリーグ(BCリーグ)や社会人野球選手にも愛用者が多い。