2017年度から預金保険料率(実効料率)が引き下げられることになった。昨年来、水面下で検討が進められていたもので、3月21日に予定されている預金保険機構の運営員会で正式決定される。新たな保険料率は、現状の0.042%から0.035~0.037%程度に引き下げられる見通しだ。マイナス金利政策で利ざやが縮小するなど、苦境に喘ぐ金融機関にとって天の慈雨となろう。
金融機関の預金保険料は、もともとは金融機関が破綻した場合、その営業を引き継ぐ金融機関を支援するための資金や、ペイオフ(預金元本1000万円までの払い戻し)の財源として、金融機関が毎期、預金残高に一定の料率を乗じた金額を預金保険機構に納付している。
このため金融機関の破綻が相次いだ1996年度に、それまで0.012%であった料率が一挙に0.084%に引き上げられた。その後、金融システムが不安視されたことから料率は高止まりしたままだったが、ようやく2012年度に0.07%に引き下げられ、さらに15年度に0.042%に引き下げられ、現在に至っている。
金融システムが安定し、金融機関の破綻がないことや、財源となる預金保険の責任準備金残高が予想を上回るペースで積み上がってきていることから、さらなる料率の引き下げに踏み切る方針だ。
「預金保険機構では21年度末時点で5兆円の責任準備金を積み立てる計画を立てていたが、現状のペースでいけば1年前倒しで目標を達成する見込みが立った」(メガバンク幹部)
この背景には、ほぼゼロ金利に近い預金利回りにもかかわらず、預金が増加し続けていることがある。預金保険料がかかる預金は、ここ2年間で約60兆円も急増している。
「預金が集まっても貸出先は乏しく、有価証券運用もリスクが高い。その一方、マイナス金利で利ざやが縮小し、収益がガタ減りどころか赤字に陥る地域金融機関も少なくない。そこに預金が増えた分、高い料率の預金保険料を取られては、やってられないという感じだ。毎年、預金保険料を見直して引き下げてほしいほどだ」(信用金庫理事長)
ゆうちょ銀行への配慮
今回の預金保険料率の引き下げは、こうした金融機関の切実な願いに応えたものだが、同時に隠された狙いがあるとメガバンクの幹部は指摘する。それは最大の預金保険料の納付者である、ゆうちょ銀行への配慮だ。
ゆうちょ銀行は、民営化を契機に預金保険機構に加盟し、預金保険料を支払い始めた。現状の貯金量は約180兆円を誇り、直近の16年度第3四半期までの累計で496億円もの預金保険料を支払う計算になっている。このペースでいけば、年間660億円もの預金保険料を納める格好だ。
一方、ゆうちょ銀行は15年11月に東証に上場し、国は保有する株式の9.2%を売却した。しかしその後、マイナス金利が導入されるなど、経営環境の悪化から、直近の16年度第3四半期(4~12月)決算は、当期純利益が前年同期比23%減と大幅に落ち込んでいる。
このため、期待される株式の二次売却は、日本郵政がタイムスケジュール化されているだけで、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険はメドが立っていない。
そうしたなか、確実に収益を底上げする預金保険料率の引き下げは、まさにゆうちょ銀行の株式二次売却に向けた福音となる。ゆうちょ銀行株を高値で売却したい政府の深慮遠謀が見て取れる。
(文=森岡英樹/ジャーナリスト)