自動車産業の雄であるトヨタ自動車。日本を代表するこの企業が来年度から採用する制度が、話題を呼んでいる。
時事通信は1日、トヨタが定期昇給制度において、人事評価を全面的に反映させる形にすると発表。同社の従来の定期昇給制度では、職位等に応じるものと、人事評価による成果を評価したものの2つが用いられていたが、2021年以降は後者のみになるとしている。
トヨタがこの制度を導入したのは、成果主義による社員の労働意欲向上が目的だという。しかしネット上ではすでに、「評価するのも人間である以上、公平性が保たれるとは思えない」「雑務を人に押し付け、成果として評価される仕事ばかりをやるスタンドプレーが横行するのでは」など、この制度に対する疑問や批判が寄せられているようだ。
成果主義のプレッシャーやコンプライアンス意識の低下が三井物産を暴走させた
いわゆる「成果主義」をめぐっては、以前よりこうした問題点を指摘する声は強い。なかでも、成果主義の負の側面が“暴走”した例としてよく挙げられるのは、総合商社大手・三井物産が2002年に起こした「国後島ディーゼル発電施設事件」、そして同社子会社のピュアースが2005年に起こした「ディーゼル排気微粒子除去装置の性能データ改ざん事件」だろう。
鈴木宗男衆議院議員をめぐる一連の事件のひとつとしても知られる「国後島ディーゼル発電施設事件」は2000年、北方領土支援の一環として当時国後島に建設予定であったディーゼル発電所の競争入札において、公正な入札を妨害したとして、偽計業務妨害の罪で三井物産の社員3人、背任の罪で外務官僚2人が有罪判決を受けることになったもの。
一方の「ディーゼル排気微粒子除去装置の性能データ改ざん事件」は、首都圏のディーゼル車規制にからみ、ディーゼル車の排気ガスからススを取り除く装置について2002年、その性能データを偽造してに都の基準に適合するように見せかけ販売したというもの。こちらも、三井物産の社員ら2人が有罪判決を受けている。
いずれの事件についても、成果主義による現場社員へのプレッシャーの存在や、その結果コンプライアンスを軽んじる傾向が社内に醸成されたことが問題の背景にあったとの分析がなされている。
もちろん成果主義には、社員のモチベーションアップや、その結果としての生産性のアップなどメリットも存在するし、そもそも厳密に考えれば、成果主義がまったく介在しない人事評価というものはあり得ないだろう。とはいえ、やはり成果主義に偏りすぎた評価制度は問題なのではないか。
現に先述した三井物産をはじめ、日本マクドナルドや富士通など、多くの大企業がいったんはこの成果主義をメインに据えた人事評価制度を取り入れ、しかし結局は取りやめたり修正したりしてきたという歴史が存在するのも事実。こうしたなかで、“日本の顔”であるトヨタが今、あえて完全成果主義に切り替えるという事態に関しては、議論の余地もあるのではないだろうか。
自動で席が決まる「オフィスダーツ」、ゼロ円の「スマイル給」、休日を入れ替える「どにーちょ」
社内制度は、企業の体質を端的に表すものだ。さまざまな企業が独自の制度を打ち出しているが、なかにはそのユニークさから、話題を呼んだ制度も少なくない。本稿では以下、そうしたユニークな社内制度を持つ企業を3社挙げてみよう。
【カルビー株式会社】
ポテトチップスなどで知られる大手スナック菓子メーカー・カルビーでは、社員同士のコミュニケーションを活性化するため、毎朝出社したあとに席替えシステムにログインすると、自動的に席が決まる「オフィスダーツ」というシステムを採用。導入当時は反対もあったというが、現在ではこのシステムにより活発なコミュニケーションがとられているという。
【株式会社カヤック】
ウェブ製作・企画・運営会社として、「面白法人カヤック」という名前でも知られるこの会社では、給与システムとして、サイコロを振って出た数と同じ%だけ、給与に上乗せされるという「サイコロ給」という制度が存在。成果主義の真逆ともいえるこの制度を採用した理由について同社は公式サイトで、「人間が人間を評価するなんて、そもそもいい加減なもの」「だったら、給料の仕組みにも、そのくらいの遊びがあっていいのでは?」と表明している。また、給与額には影響しないものの、社員の長所を別の社員が評価し、それを給与明細に記載する「スマイル給」なる制度もある。
【Sansan株式会社】
法人や個人に向けたクラウド名刺管理サービスを提供する同社は、多くの独自社内制度を設けていることで有名だ。代表的なものとしては、異なる業務に就く社員同士が、交流のために3人一組で食事をする場合に飲食費が補助されるという「Know Me!(のーみー)」。ほかにも、平日と休日の勤務日を入れ替えられる「どにーちょ」や、自宅勤務を選択できる「イエーイ」などの制度もある。
こうした制度のすべてが、生産性や売り上げにそのまま直結するというわけではないだろう。しかし、そうした制度に魅力を感じて入社を目指したり、継続して勤務しようという意欲を持ったりする人がいることも確かだ。トヨタのような大企業こそ、こうしたユニークな制度を採用する“余裕”を見せてほしいという気もしないではないのである。
(文=編集部)