任天堂の業績は絶好調だ。2020年4~6月期連結決算は売上高が前年同期の2.1倍の3581億円、最終利益は6.4倍の1064億円と驚異的な増収増益となった。株価は急騰。9月3日に年初来高値の6万1300円をつけ、株式時価総額は8兆713億円。年初来安値(3月13日)時点と比べ1.9倍となった。
新型コロナウイルスの影響で多くの業界が苦境に陥るなか、「巣ごもり需要」をとらえたゲーム業界は絶好調だ。
任天堂は家庭用ゲーム機ニンテンドースイッチ用のゲームソフト「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」が3月の発売以降、世界的に大ヒットした。無人島に移住したプレーヤ―が動物たちとの暮らしを楽しむプレー動画は会員制交流サイト(SNS)で発信され、イタリアのファッションブランド「ヴァレンティノ」などとのコラボレーションにも発展。新型コロナ禍を自宅で過ごす人々の心をとらえた。米大統領選でバイデン陣営の選挙運動に「あつ森」が登場した。家庭用ゲーム機では、2017年に発売された任天堂の「ニンテンドースイッチ」が「あつ森」のヒットで、国内の販売台数が累計1500万台を突破した。
プレイステーションPS5が発売
巣ごもり需要の恩恵はゲーム機各社に及ぶ。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は「プレイステーション(PS)5」を日本や米国など7カ国で11月12日に発売する。通常版の価格は税抜きで4万9980円、ダウンロード専用機は3万9980円。廉価版の投入でユーザーの間口を広げ、販売拡大につなげる。7年ぶりのモデルチェンジである。
ソニーは21年3月期の営業利益を6200億円と予想しており、4割をゲーム事業で稼ぐ腹積もりだ。
ゴールドマン・サックス証券は「PS5効果で25年3月期のゲーム事業の営業利益は6000億円を超える」とし、ソニーの目標株価を1万3100円とした。8月17日に約19年ぶりとなる8920円の高値をつけ、足元は8000円前後だ。25年3月期には21年同期のゲーム事業の利益の2.4倍となると試算している。
13年11月に発売した「PS4」は翌年3月までの4カ月間で760万台を売り切り、今年6月末までの累計で1億1210万台を販売した。「PS5」はこれを上回る数字を期待している。成功のカギを握るのは初めて投入するダウンロード専用機だ。データの読み込む速度は「PS4」の100倍とされる。場面の切り替えに時間をかけずにゲームを楽しめる。
PSは399.99ドル(3万9980円)が普及に欠かせない値段なのだ。「PS4」は開発にあたった最初に399ドルと価格を決めたほど。今回も399ドルを踏襲した。「PS5」は発売と同時に予約が殺到し、先行予約できた人がインターネットの販売サイトに40万円の値付けをして転売を試み、大騒ぎになった。
ゲームソフトメーカーの動きも急だ。スクウェア・エニックス・ホールディングスは「ファイナルファンタジー」シリーズの新作(同16)を「PS5」向けに制作中と発表した。
家庭用ゲームソフト、大手カプコンの株価も高値圏にあり、クリスマス商戦を見据え熱気を帯びている。「桃太郎電鉄」を11月に発売するコナミホールディングス、三國志シリーズで知られるコーエーテクモホールディングスの株価も堅調だ。
クラウドゲーム時代の過渡期
米マイクロソフトの日本法人、日本マイクロソフト(MS)も11月に「Xbox(エックスボックス)シリーズX」を投入する。現行機で劣勢だった「Xbox」はクラウドゲームとの親和性を高めた。「Xbox」の利用者がクラウドゲームを手軽に楽しめるようにした。
日本MSは、これまで3万2980円で売る予定だった「Xbox」のダウンロード専用機の国内価格を税抜き2万9980円に引き下げると発表した。公表済みの価格を発売前に値引きするのは異例中の異例だ。「PS5」を意識した空中戦が始まった。
こうしたなか、携帯ゲーム機は姿を消す。任天堂は9月、「ニンテンドー3DS」の生産を停止した。シリーズ累計販売台数は8000万台。低迷期の任天堂を下支えしたが携帯型と据え置き型が融合したスイッチの登場で、お役御免となった。SIEも携帯ゲーム機の出荷を終えた。代わって存在感を増すのがスマートフォン(スマホ)だ。高速大容量の5Gによって、スマホでも本格的なゲームが楽しめるようになる。
日本の携帯大手3社はそれぞれ、ゲームソフトをクラウド上で管理することで、多数のゲームをダウンロードせずに楽しめるクラウドゲームサービスを展開。クラウドゲームには米グーグルなど大手ITも参入している。ハード(機器)からクラウドビジネスにどう移行し、どういうスキームを構築するかで次の勝者が決まる。クラウドゲーム時代の過渡期に登場する「PS5」の成否が、ゲームの未来に、大きくかかわってきそうだ。