人間が雇用されない「沈黙の解雇」が進行…高度な専門性やサービス業でも機械に置き換え加速
本連載「コンピュータ技術の進歩と日本の雇用の未来を考える」の最終回では、コンピュータ技術の加速的な進歩による雇用環境の変化に、どのように適応するかを考えてみたい。
前提として、ブルーカラーの仕事から、事務職などのホワイトカラーの仕事にとどまらず、高度な知識・技能など専門性を必要とするこれまで人間にしかできない、高度で定性的・非定型とされてきた複雑な仕事も、コンピュータ技術で代替えされつつある。現在の雇用が広範囲に喪失し、人間が雇用されないという「沈黙の解雇」が起こるだろう。
こうした流れは急速なだけに、これまでの機械による身体的作業の代替えとは異なり、AI(人工知能)に代表されるデジタルテクノロジーによる人間領域の侵犯、ひいては、それが人間にとって代わる存在となるといった人間存在そのものにかかわる問題となる。これまで人間しかできないと思っていたことが、意外とそうでもないということがわかる、つまり、極論すると真の人間存在とは何かが真剣に問われるわけである。これには、多くの人が強い危機感を持つかもしれない。話題性を煽ることで、購読者数を増やしたいメディアの動きをどう解釈するかについては読者諸兄姉の判断に任せることとしたい。
しかし、前回の連載でも述べたが、雇用喪失の観点も含めて、今後、現実的な問題となっていくのは、人間(の意識)に近づこうとする(ひいては人間の存在を超越するかもしれない)「強いAI」ではなく、急速に進歩する「深層学習(ディープラーニング)」のアルゴリズムを核とする「弱いAI」である。たとえば、「弱いAI」を実装して急速に進歩する制御技術を有したロボットなどだ。
デジタルテクノロジー革新の民主化
このデジタルテクノロジー革新の民主化(国家や大企業の独占物ではなく、個人やスタートアップ<ベンチャー企業>でも等しく活用できる)がビジネス活動に与える自由度の大きさは、着目に値するという考えもある。いずれにせよ、そこから享受するメリットの本質とは、デジタル化とIoT(モノのインターネット化)によって生成される膨大なデータ(大量の非定型データを含むビッグデータ)を、パーセプトロン【註1】型の深層自己学習に代表されるアルゴリズムの解析によって、既知の知の精度を飛躍的に上げ、人間では計りえない知を得ることで知の境界とその価値を拡大できることであろう。