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ソウル便は乗客2人、600人のパイロット・CAに希望退職等を提示…LCC、消滅の危機

文=編集部
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エアアジアのエアバスA320-200(「Wikipedia」より)

 新型コロナウイルス感染拡大で航空業界は深刻な打撃を受けている。大手エアラインも苦しいが、LCC(格安航空会社)はもっと苦しい。事業継続を断念する会社が出る一方、積極的に就航する“逆張り”の会社もある。

 日本航空(JAL)が100%出資する国際線LCC、ZIPAIR Tokyo(ジップエア トーキョー)が10月16日、旅客便(成田-韓国・ソウル)を初めて就航させた。入国制限が続き、最初の便の乗客は定員290名に対してわずか2名という厳しいスタートとなった。

 ジップエアは当初は、2020年5月の成田-タイ・バンコク線でスタートを切る計画だったが、新型コロナの影響で延期していた。それでも米西海岸やハワイなどへの新路線展開に向けた準備の意味合いもあって、バンコク線も10月28日から運航した。

 一方、中部空港を拠点とするLCCのエアアジア・ジャパンは日本から撤退する。新型コロナによる航空需要急減を受けて資金繰りが悪化し、事業継続を断念。12月5日付で国内(札幌、仙台、福岡)と国際(台北)の計4路線を廃止する。新型コロナウイルス禍、国内航空会社として初の事業撤退となる。

 エアアジアの日本からの撤退は、今回で2度目だ。第1期エアアジア・ジャパンは2011年、マレーシアが本社で東南アジア最大のLCC、エアアジアと全日本空輸(現ANAホールディングス)の合弁として発足。搭乗率が低迷し13年に提携を解消。日本から撤退した。

 その後、エアアジアは楽天などから出資を受け、14年に日本に再参入した。就航は当初計画より大幅に遅れて17年10月となった。中部空港を本拠地とする唯一の航空会社で、機材はエアバスA320型機が3機。国内線は札幌便や仙台便、国際線は台北便の合計3路線を運航していた。

ピーチは国内線を開設

 JAL系のジェットスター・ジャパンは、関西空港と福岡、熊本、高知を結ぶ路線、中部空港と新千歳、鹿児島を結ぶルート、成田空港と庄内空港を結ぶ6つの路線を運休し、「事実上撤退する方針」(関係者)とみられている。関西空港にあるパイロットや客室乗務員の拠点となる事務所を閉鎖。人件費を削減するため正社員・契約社員合わせて600人いるパイロットと客室乗務員に対し、希望退職や無給の長期休暇とすることを提示した。

 中部空港はエアアジア・ジャパンの事業展開を前提にLCC専用の第二ターミナルを建設し、19年9月に開業したばかり。エアアジアは事業継続を断念、ジェットスターも撤退するとなると影響は甚大だ。

 代わって、ANAホールディングス傘下のLCCピーチ・アビエーションが中部空港を拠点とする国内線を就航する。12月24日から新千歳便を1日2往復、仙台便を1日1往復運航する。ピーチは新たな国内線の開設で、LCC間の競争で優位に立てると判断した。

 ANAは傘下のLCC、ピーチとバニラ・エアを19年11月に統合させ、新生ピーチが誕生した。ピーチは関西空港、バニラが成田空港を拠点としており、相互補完できるメリットがある。中距離LCCに参入し、海外のLCCに対抗する戦略を描いた。新生ピーチは「21年3月期の売上高1500億円」を計画したが、コロナ禍で「アジアのLCCの雄」となる構想は消し飛んでしまった。それでも、成田空港で、より多く発着できるターミナルに移転することを決めるなど、感染収束後を見据えた国内線拡張の準備を怠らない。

LCC同士の合併、再編は不可避か

 国内線にピーチ、ジェットスター、エアアジアの各航空会社が就航した12年がLCC元年と呼ばれている。LCCは安い運賃で集客。満席で飛ばし稼働率を高めることによって運転コストを下げる。損益分岐点となる搭乗率は8割程度とされる。売り上げの確保が喫緊の課題だ。

 感染防止策として機内の乗客数を定員以下に減らせば、搭乗率は下がる。搭乗率が落ちても採算が取れるようにするには、運賃を上げるしかない。だが、運賃が安くないLCCに若い乗客は魅力を感じないだろう。LCC離れが進むことになりかねない。

 エアアジアは日本の会社ではないので、搭乗率が落ちれば即撤退する。日系のLCCは需要の動向を見て便数を減らしながら様子見が続く。観光客が戻れば、大手だけでなくLCCの利用が増えると期待しているからだ。耐え忍び、復活を期すところがほとんどなのだ。

 LCCを含め日本の航空会社はすべて、JAL系かANA系に分けられる。宮崎空港が拠点のソラシドエアや「北海道の翼」の愛称で知られるエア・ドゥ、再建途上のスカイマークも実態はANA系だ。独占禁止法の関係で合併・再編をやり過ぎると発着枠が減ることになるので、そこは慎重だ。

 どんなに苦しくても、「海外は、ハワイに行けるようになれば利用客は一気に増える」(大手エアラインの営業担当役員)などと当事者は意外に楽観的な見方をしている。だが、財界関係者の見方は厳しい。

「航空業界とホテル業界はインバウンド・バブルにのぼせすぎた。本当の需要の倍ぐらいの供給能力を確保してきたけれど、当面、客は戻らない。ANAもJALも本体を維持するのも大変な状況。系列LCCは清算することになるかもしれない。LCCへの出資はたいした額ではない。機材もリースなので解約すればいい。問題は社員だが、早期退職募集などで解雇するしかないのではないか。LCC同士の合併、再編は避けられない。LCCやインバウンド誘致に力を入れてきた地方空港も厳しくなるだろう」

 財界関係者は締めくくった。航空業界は来年の夏も冷夏になるかもしれない。

(文=編集部)

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