新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2月末から全国的にテーマパークや遊園地の休園が相次いだ。多くの施設が3月中旬を目処に再開を予定していたが、感染者は増え続け、4月には緊急事態宣言が発令。休園期間の延長が相次ぎ、特に宣言解除が遅れた東京都内の施設は、早くても6月頭の再開がやっとだった。
屋内型テーマパークの受難
7月頃から多くのテーマパークが営業を再開する中、7月13日まで休館を継続していたテーマパークがある。東京都多摩市の「サンリオピューロランド」(以下、ピューロランド)だ。
しかも、13日からのオープンは年間パスポート保持者を対象とした「プレオープン」であり、一般営業再開は20日からと、さらに1週間遅れとなった。その理由は何だったのだろうか。
「4月からずっと営業再開に向けて動いていましたが、毎日のように社会情勢が変わるため、感染症対策を万全にするのは容易ではありませんでした。特に当社は屋内型テーマパークのため、換気方法など気になる点が多く、再開の準備に時間を要しました。何度も議論した結果、『7月13日のプレオープンが最短の営業再開日』という結論が出たのです」
そう話すのは、サンリオエンターテイメントマーケティング課で広報を務める志賀優子氏だ。志賀氏は「とにかく、あらゆる事項において検討の時間が長かったと感じます」と休館期間を振り返る。
「キャパシティを制限するといっても、どのくらいの人数が適正なのかもわかりませんでしたし、フードの準備量やスタッフの配置人数なども手探り状態でした。また、スタッフが着けるフェイスシールドひとつをとっても、ピューロランドで働く場合に最も使いやすいものはどれか、複数のメーカーの製品を比較検討しました」(志賀氏)
オンラインでのグリーティングが意外な人気
時間はかかったものの、ピューロランドは万全の対策でゲストを迎え入れ始めた。しかし、同館のコンセプトは公式サイトにも書かれているように「大好きなキャラクターにあえる屋内型テーマパーク」。つまり、キャラクターと触れ合えるグリーティングやショー、パレードが目玉だ。しかし、withコロナで再開した今、これまで通りの交流は難しくなっているという。
「まず、既存のショーとパレードは一度すべて休止にしました。そして、客席はもちろん、ステージ上の出演者同士のソーシャルディスタンスを確保した新しいショーを考案しました。通常、新たなショーをつくるには半年から1年程度かかるのですが、今回は2カ月ほどで完成させました。『ショーがないピューロランドはピューロランドではない』という声と、お客さまに安心して楽しんでいただきたいという想いを両立させたかったのです」(同)
そうして完成した「Go for it!~笑顔あつめて~」というショーは、出演するキャラクターや、ダンスやMCを担当するライブエンターテイナーが常に2m以上の距離を保ちつつ、不自然さを感じさせない演出がなされている。こうした工夫は、グリーティングでも見られる。
「現在、グリーティングはキャラクターとゲストの間にベンチを設け、距離を取って行っています。ゲスト同様にマスクを着用して登場するキャラクターもいるので、今しか見られない姿はご好評をいただいています。また、現在はスタッフがカメラをお預かりすることはせず、ゲスト自身での撮影をお願いしているので、中にはキャラクターとの“自撮り”を楽しんでいらっしゃる方も多いです」(同)
キャラクターと直接触れ合えるグリーティングは、ファンからの人気も高い。現在、このグリーティングはオンラインでも行っているという。
「『オンライングリーティング』は自宅でキャラクターと交流できるだけでなく、人目を気にしなくていいという点もウケているようです。また、ゲストが待ち構えていると、10キャラクターほどが代わる代わる画面の前に登場する『無限グリーティング』も好評です。キャラクターが順番待ちをするグリーティングはリアルの場ではなかなかできないので、オンラインならではの企画といえますね。後ろで順番待ちをしているキャラクターの姿まで見えるので、『このキャラクターの新しい魅力を知った!』という声もいただいております」(同)
ポチャッコのバースデーイベントを生配信
この「無限グリーティング」は配信プラットフォームの「SHOWROOM」で行われており、参加チケットは1枚2000G(現金に換算すると約2200円)。配信の翌日から1週間は毎日再配信もしてくれる。家にいながら、目一杯キャラクターたちと触れ合うことができるとあり、毎回多くのファンが参加するそうだ。
志賀氏いわく、オンラインでのグリーティングの集客数は「一度の開催で館内のシアターの客席と同数程度」とのこと。館内にあるホールの客席数と照らし合わせると、300~400人近くが集まっている計算だ。リアルでは“密”とされてしまう人数のイベントを可能にするのは、オンラインならではといえる。
コロナ禍でオンラインイベントを盛んに行うようになったピューロランドだが、発端は何だったのだろうか。ピューロランドのSNSを担当する若原由紀子氏は、こう説明する。
「ピューロランドは2月22日から休館となりましたが、実は2月29日がお誕生日の“ポチャッコ”というキャラクターがいました。ポチャッコの誕生日は4年に一度ですし、『今年はお誕生日当日にお祝いができる』と、前々から楽しみにされているファンの方が多くいたこともあり、イベントとしては開催が中止となってしまった『ポチャッコのバースデーライブ』の様子をインスタグラムとツイッターで配信しようと決めたのです」(若原氏)
この配信をリアルタイムで視聴したファンは、なんと3万6000人以上。これにより、オンラインイベントの需要の高さを実感したという。
「ほかにも、SNSでトレンドになっているものはすぐに取り扱ったり、日々いろいろな角度からファンの方の意見にアンテナを張り巡らせたりして、コロナ禍でニーズのあるSNSコンテンツを迅速に提供できるように努めました。たとえば、オンライン会議でバーチャル背景を使用することが流行り始めたときは、ピューロランドの風景や、館内で売っているキャラクターのカチューシャを装着しているように見える壁紙をつくり、配信しました」(同)
ステイホーム中もファンの心が離れないように、SNSを巧みに活用したわけだ。
「これまで、SNSはピューロランドに来館してもらうことを最終目的としていましたが、これからはファンの方にピューロランドとの接点をつくっていただくツールになっていくのかな、と思っています。家にいながらでもイベントに参加して、ピューロランドの楽しさを思い出してもらえるようなSNSを目指していきたいですね」(同)
ピューロランドは12月7日で開業30周年を迎える。まだまだエンタメ業界には厳しい風が吹いているが、志賀氏と若原氏は「30周年も、ファンのみなさまと心をひとつにして楽しめることを計画しています」と笑顔で応えてくれた。
(文=ますだポム子/清談社)
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