昨年、スクリーンデビューから90周年を迎えたミッキーマウス。これを記念し、東京ディズニーリゾートでは“アニバーサリーイヤー”と題してさまざまなオリジナルグッズが発売され、大いに賑わった。そんなミッキーの著作権が「そろそろ切れるのでは」とささやかれている。
果たして、世界で一番有名なキャラクターの著作権は本当に切れるのか? もし切れた場合、ディズニーの経営はどうなってしまうのだろうか。
複雑なミッキーの著作権事情
ミッキーは1928年に『蒸気船ウィリー』という短編アニメ映画でデビューし、同作の大ヒットによって世界中で認知されるようになった。以降、もはや数えきれないほどの関連グッズが生み出され、今やミッキー単体の“年収”は9000億円におよぶという。ディズニーのキャラでは、2位のくまのプーさん(5700億円)に圧倒的な差をつけて堂々の1位だ。
そんな“世界一カネを稼ぐネズミ”であるミッキーの著作権が切れるという噂は、果たして本当なのか。
「ミッキーマウスの著作権は、おそらく2023年末で切れるでしょう」と語るのは、著作権に詳しい弁護士の福井健策氏だ。ただし、これは「アメリカの法律」の話であり、かつ「オリジナル」のミッキーの話だという。
「デビュー当時のいわば“オリジナル”のミッキーと現在のミッキーでは、デザインがずいぶん変わっています。オリジナルのミッキーには、もちろん著作権があります。そして、少しずつ変化したミッキーにもそれぞれ著作権があるのです」(福井氏)
キャラクターはデザインが変わった時点で「二次的著作物」という扱いになり、それぞれ個別に著作権が発生する。つまり、あと4年7カ月で著作権が切れるミッキーは“初代”のミッキーのことなのだ。
「オリジナルのミッキーの著作権が切れれば、そのイラストをグッズやTシャツにしたり、『蒸気船ウィリー』のDVDを販売したりすることもできるようになります。しかし、繰り返しになりますが、これはアメリカの法律での話です。また、現在のデザインのミッキーに関しては著作権が切れていないので、自由に使うことはできません」(同)
ミッキーの著作権を延ばし続けてきたディズニー
一方で、オリジナルのミッキーの著作権は「24年以降も延びるのでは」と噂されている。というのも、過去数回にわたり、権利元であるディズニーがさまざまな手を使って著作権の期間を延長してきた経緯があるからだ。
「ミッキーが誕生した当時のアメリカでは、『著作権は発行から28年(更新登録で56年)で切れる』と決められていました。それが75年に延長され、さらに95年まで延長されました。これは、ディズニーがミッキーの著作権が切れそうになるたびに延長のためのロビイ活動を行ったことも、一因といわれています」(同)
当時はまだ著作権に対する意識がそれほど高くなく、万人が高い関心を持っている時代ではなかった。そうした社会情勢はディズニーにとっては好都合で、法律を変えるといった強引な手を使っても大きな問題になることはなく、結果的に収益を独占し続けることが可能だったのだ。
しかし、インターネット社会となった今、著作権への意識は高まっている。ツイッターでもインスタグラムでも、個人が発信したものにはもれなく著作権が発生するので他人事ではなくなったのだ。
「アメリカの法律では、著作権に対して『フェアユース』という考え方があります。著作権者の許諾がなくても、公正な範囲なら自由に作品を使えるという制度です。近年では、デジタルやパロディの方面でこのフェアユースを認める判決がかなり増えています。著作権が身近になったことで、『権利を守りすぎるのは時に不自由で不公正だ』という考えが広く認識されるようになったわけです」(同)
米国議会がこれ以上の延長を行わない、つまり23年でオリジナルのミッキーの著作権が切れる可能性があるのには、こうした事情もあったのだ。
著作権切れで逆にディズニーの売り上げが増加?
では、ミッキーの著作権が切れたらディズニーは大きなダメージを被ることになるのだろうか。
「23年にオリジナルのミッキーの著作権が切れたら、おそらくアメリカではミッキーを利用した商品や、新たなデザイン・コミック・映像などの二次的著作物が大量に生まれ、販売されるでしょう。だからといってディズニーの売り上げが大きく下がるとは限らず、場合によってはむしろ上がる可能性すらあると見ています。二次的著作物が増えることで、逆に本家ミッキーの人気や価値が高まることもあるからです。とにかく、ミッキーの著作権が切れることをきっかけに、キャラクターの世界ではこれまで誰も体験したことのない、壮大な実験が始まろうとしているのです」(同)
23年にミッキーの著作権が切れたとき、何が起きるか、あるいは何も起きないのか……。天国のウォルト・ディズニーも楽しみにしているのかもしれない。
(文=島野美穂/清談社)
●取材協力/「骨董通り法律事務所」代表パートナー 福井健策