受験生たちが志望大学を固める秋頃には毎年、大学入試の予想難易度ランキングや就職率ランキングが話題になるが、そのなかでも女子大は特殊な存在感を放っている。
女子大は昨今、人気が低迷し時代遅れだといわれているイメージもあるが、2019年卒の学生の平均実就職率を見ると、女子大は91.7%となっており、大学全体の88.9%という数字を上回っている。リーマンショック後の10年、11年も女子大の平均実就職率は大学全体を上回っており、その高い就職率は“MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)並み”といわれることも。
競争率が低い割に依然として高い就職率を誇る女子大は、実は超穴場なのではないだろうか。そこで、今年3月に都内の私立女子大を卒業した筆者が、『大学の学科図鑑』(SBクリエイティブ)や『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)を著書に持つ大学ジャーナリスト・石渡嶺司氏に、昨今の女子大事情について聞いた。
女子大がここ5年ほどで人気回復基調の理由
最初に、女子大の人気が低迷しているというイメージについて石渡氏について聞いてみた。
「女子大の人気が落ちていたのは5〜10年ほど前のこと。女子大には何十年も前から事務職などの一般職での求人が多く来ることから就職に強く、女子大を卒業した学生は一般職で5年ほど働いた後、専業主婦になるというのがお決まりの流れでした。
しかし、ここ10年ほどで、総合職でもプライベートと仕事の両立や、ライフステージに合わせた働き方ができる環境を整えた企業が増えてきました。さらに、妻を専業主婦にできるほどの収入を持つ男性も少なくなってきたため、男性の収入に依存する専業主婦はリスクが高いと認識されるようになったんです。
そんな時代の流れから、女子大を卒業して一般職に就職するよりも、共学から総合職として長く働ける企業に就職したほうが、よっぽどメリットがあるじゃないかと考える人が増え、女子大の人気は落ちていったんです」(石渡氏)
しかし、人気が低迷していたのも5年ほど前までで、現在都内の女子大は人気を盛り返しつつあるのだという。
「女子大がここ数年で人気を取り戻している理由は主に2つあります。ひとつは大学の入学定員が厳格化されたことによって、受験競争が激しくなったこと。これまで、大学では入学辞退者が出ることを見越して定員よりも多めに合格者を出しており、その結果、定員を超える数の学生が入学しても良しとされていました。
しかし、2016年から入学定員がかなり厳しく見られるようになったことで、都内私立大学全体の入学難易度がグっと上がったんです。女子大も例外ではなく、全体的に入学が難しくなっているのですが、早慶上智やMARCHなどの有名大学よりはまだ入学しやすい。これが昨今の人気回復につながったと思われます。
もうひとつは、人気低迷の要因になった一般職就職志向に関連したことですが、一部の女子大はいつまでも一般職採用の時代ではないだろうと考え、総合職就職を意識して力を入れるようになっていたんです。昔ながらの文学部や家政学部のほかにグローバル関連や経済・経営関連の学部を新設するなどし、総合職採用を見据えたキャリア指導に注力する女子大が増えてきていることも、人気が回復しつつある理由でしょう。
そんな変化から、受験生やその保護者にも、入学しやすい割に総合職採用をちゃんと考えているのであれば、進学する価値はあるだろうと見られるようになってきており、ここ5年くらいは“コスパがいい”ということで人気が戻りつつあります」(石渡氏)
確かに今春卒業した筆者の女子大でも、授業内で将来は専業主婦になりたいか、働き続けたいかというテーマでディベートをしたことがあった。大学側も総合職就職を選ぶか、一般職就職を選ぶかと学生自ら検討させる環境をつくっていたように思える。
また、就職に向けたガイダンスは1年次から行われ、なかには“就活メイク講座”といった女子大ならではともいえるプログラムも用意されており、就活指導には特別力を入れていた印象だった。
古くからの特質とイメージがこびりつく女子大
先述のように一般職就職に加え、総合職を志望する女子学生が増えたことによって、就活市場でも女子大の学生だからといってイメージや志向を一概に語るのは難しくなっているという。とはいえ、古くからの特質やイメージが完全に払拭されたわけでもない。
「今も一般職の就職に強いのは事実ですし、大学全体の平均値を上回っている91.7%という就職率の高さも、一般職就職を含めての数字。総合職に限定して就職率を算出すると、やはり“MARCH並み”とはいえません。
親御さん世代の方なら、女子大を卒業したら一般職就職して、5年くらい勤務したら結婚して専業主婦になる――という“女子大=専業主婦養成所”のように考えている方も少なくないでしょう。実際に女子大のなかには、今でも結婚して専業主婦になることこそが女の幸せだと考える学生が一定数いますからね。女子大に入学したら、そういう一部の空気感に引っ張られるリスクはあるかもしれません」(石渡氏)
筆者は就職活動をしていた際に、面接で「どうして一般職ではなく総合職を希望しているのか」と頻繁に聞かれた記憶がある。そんなに珍しいことなのかと不思議に感じていたが、石渡氏によると、それもまた女子大に対して従来の固定観念が残っているからだという。女子大から総合職就職を目指したいのであれば、自分の軸をしっかりと持つ必要がありそうだ。
では、どんなキャリアプラン、どんな学びを理想としている高校生に女子大はマッチするのだろうか。
「学びたい分野を扱う学部がその女子大にあるのならば、候補に入れていいでしょう。なおかつ、総合職としてある程度長い期間働くという前提で、総合職就職を応援するようなキャリア指導に力を入れている女子大を選ぶといいかもしれませんね」(石渡氏)
大学ジャーナリストが選ぶ“コスパ抜群女子大”
そんななかでも特にコスパがいいといえる女子大はどこなのだろうか。石渡氏にイチオシの3大学を挙げていただこう。
「まず昭和女子大。300万部以上売れた『女性の品格』の著者である坂東眞理子さんが現在理事長・総長を務める昭和女子大は、近年総合職採用を強く意識したキャリア指導に転換しています。
次に清泉女子大。品川にある小規模な女子大ですが、スペイン語関連の学科や地球市民学科というグローバル学科を持っており、グローバル関連の商社やメーカーがここにピンポイントで求人を出していることもあります。世界に視野を向けた働き方がしたい女性にとってはコスパがいいでしょう。
最後は津田塾大学。女子大のなかでは難易度の高い大学ですが、総合職採用を意識した学部を新設しており、実際に高い就職率にもつながっているようですね」(石渡氏)
一部では女子大はそう遠くない将来、消滅するのではないかと囁かれることもあるが、石渡氏は「案外長くこの穴場的ポジションであり続けるだろう」と見ているそうだ。
「女子大の伝統校であれば一度は共学化を検討しているはずですが、だいたい検討するだけで話はたち消えになってきているんです。その理由のひとつは、共学化の話が出た途端、卒業生たちが猛反発するから。卒業生と揉めても、大学からすれば得することなんてないですからね。
そしてもうひとつは女子大が共学化して成功した例よりは、うまくいかなかった例のほうが圧倒的に多いから。男子学生も入学してくれば学生は2倍になるだろうと皮算用していたところ、女子だけだから進学しようとしていたのに共学になるなら意味がない、と思う受験生や親御さんも多いようで、共学になって人気がガタっと落ちてしまうというケースは多々ありました。
ですからヘタに共学化せず、女子大として生き残りを図ろうと考える大学のほうが多いため、政府の政策転換などで女子大の存在を社会的に許さなくしていくなどの大きな変化がない限り、生き残っていくでしょう」(石渡氏)
女子大の教育は、時代とともに流動的に変化している。これまでなんとなく女子大を志望校に入れていなかった高校生やその保護者の方々も、一度目を向けてみてもいいのかもしれない。
(取材・文=福永全体/A4studio)