共立女子大は新学部開設、昭和女子大は“お嬢様学校”から脱皮…女子大が改革を加速する理由
8月下旬に公表された文部科学省の学校基本調査によると、2020年度の大学学部の在学者数262万3900人のうち、女性は119万3537人で45.5%を占める。19年度からの大学学部生の増加数1万4752人のうち女性は9575人なので、学部生は女子が多数派になることは時間の問題だ。
ただ、個々の大学キャンパスで女子学生が多数派になる日はまだまだという声もある。女子だけの女子大学が健在だからである。ところが今、その女子大が大きく様変わりしている。
10月上旬の全国紙に、共立女子大学の全面広告(1ページ)が載っていた。「リーダーシップを発揮する人生か、そうでないか。」がメインタイトルである。さらに、「リーダーシップの共立」というフレーズに「主専攻は様々な専門分野、副専攻はリーダーシップ」とある。
これからの時代、集団で共通の目標に向かう際に必要となるリーダーシップとはどうあるべきか、という問題意識であろうが、「リーダーだとか権限があるとか立場の違いは関係ない」ともいう。
他の総合大学、たとえば「教育力」をメインテーマにした日本大学などの全面広告に比べ、リーダーシップを発揮するにはどのような大学教育が必要か、というテーマに堂々と向き合う姿勢が、いかにも最近の女子大らしい。
共立女子大は新学部でリーダーシップを養成
この4月にスタートした共立女子大のビジネス学部の学びの仕組みはユニークだ。
2年までの前半はリーダーシッププログラム、3年からは企業と連携して課題解決型授業を主として進める。学ぶ主要分野は、経営・マーケティング・経済・会計であるから、企業経営を意識している。その学びのベースとなる英語・法律・統計は2年までの必修科目となっている。3年からは専門科目を履修しつつ、実践的なビジネス能力が身につくように工夫されている。
企業と連携して課題解決型授業を重視する新学部では、学生サイドの関心や興味だけでなく、より実現性が高く、現実的なテーマを取り上げる方針だ。企業の具体的課題の解決に取り組むことによって、課題の分析から方針設定、実行と解決するまでのプロセスから、リーダーシップを身につける学びとなる。単なる職場体験になりがちなインターンシップに比べ、より現実に即した内容だ。また、東京駅に近いキャンパスの立地も好条件である。
このビジネス学部の受験生の特質は、同大の家政や看護などの他学部と比べ、併願校が女子大でなく、他の総合大学の経済・商・経営学部などが多いことだ。これは単に女子大だからという理由ではなく、志望学部の系統と自分のキャリア志向のマッチングを重視して受験校を選択したからであろう。
女性こそリーダーシップを身につけるべき時代へ
男女雇用機会均等法の施行から34年、生涯を通じて経済的に自立したロングキャリアを身につけることが、女性のスタンダードモデルになっている。企業で管理職など幹部の30%を女性にという政策目標は未達成なものの、世の流れになっている。大学生の半数が女性なのだから、企業もその流れを無視できないのは当然だろう。これから、女性管理職のシェアがどんどん広がることは間違いない。女子大でも、リーダーシップが必要な総合職に欠かせない知識・能力を育成する動きは今後も強まっていくだろう。
少子化で18歳人口が減っても、今までは大学進学率が上がっていたため、受験生の実数はそう減らなかった。ところが、東京では定員厳格化で有名私大が合格者を減らした。そのため中堅私大との併願校数を増やす受験生も多く、おかげで首都圏では定員割れだった中堅下位の私大も志願者が増え、欠員状況が改善したケースも目立つ。ここ1、2年は一息ついた状態だが、東京女学館大学のように募集停止の女子大も出る状況は変わっていない。
長い目で見ると、地方はもちろん東京近郊の女子大も志願者を増やすための具体的な対策を考えなくてはならない。そのためには、女子受験生のニーズをとらえ直す大学改革を進める必要がある。将来、企業でリーダーシップを発揮する総合職を目指す大学教育の女子大が増加したのは、当然の流れである。
お茶の水女子大と津田塾大の取り組み
国立のお茶の水女子大学は、グローバルリーダーシップ研究所を設けた。その前に、キャリアアップを目指す女性のための徽音塾(お茶大女性ビジネスリーダー育成塾)を14年に開講している。企業の管理職など指導的な立場に就くことを目指す女性を、主な対象としている。また、グローバル女性リーダー育成を目指し、国内外から毎年10名以上の女性研究者を招聘し、重点研究領域であるリーダーシップ、ジェンダー、国際協力、比較日本学、政治・経済学等の学際的国際共同研究を進めている。
一方、私立の雄・津田塾大学が17年に新設した総合政策学部も、企業でリーダーとなる総合職を目指している。公共政策、経済政策、社会情報、人間社会といった4つの課題領域を横断しながら、多角的な学びができるようになっている。データサイエンスも重視する。
グローバル化が進むと、国境を越えて異なる集団との間で新たな関係を構築する能力が求められる。異なる集団間での課題を理解し、語学も含めたコミュニケーション能力が求められるわけだが、それだけ女性が活躍する可能性が高まっている。男性のように人脈や前例踏襲に頼らないからだ。語学力はもとより、課題解決能力は今後の社会において、女性にとっても必須となる。これは、お茶の水女子大と津田塾大とも共通している。
なお、津田塾大の18年度の卒業生の進路状況は、総合職59%、専門職36%、一般職5%で、有名女子大の総合職・専門職志向が端的に表れている。新学部の卒業生も加わった21年度の就職状況は、さらに進化するだろう。
“お嬢様学校”からの脱皮に成功した昭和女子大
キャリアアップの教育を目指す昭和女子大学は、卒業後のキャリアプランやライフスタイルについて、学生が信頼できる社会人に直接相談できるメンター制度が有名だ。登録しているメンターは30~50代を中心とした社会人女性で、300人以上いる。商社や銀行、出版、教育、建築など幅広い職業に加え、海外生活や子育て経験など多彩な働き方や人生経験を持った人材だ。
さらに、同大は社会の新しい動きに対応して、学びのコースの新設にも積極的だ。最近では、18年にグローバルビジネス学部に会計ファイナンス学科を、20年には環境デザイン学部を設けている。その取り組みによって、ここ数年の実就職率(就職者÷<卒業者-大学院進学者>)は女子大で日本一の実績を残している。
なお、米国のテンプル大学日本校が19年9月に昭和女子大の世田谷キャンパスに移転し、20年6月5日には米国ペンシルベニア州立テンプル大学ジャパンキャンパスとオンラインでの学生間の交流をスタートさせた。両大学で計5年学び、2つの学位を取得するダブルディグリー・プログラムがあるので、テンプル大学の学位も取れる。
リーダーシップを身につけるための女子大の積極的な改革が、さまざまに展開されている。
(文=木村誠/教育ジャーナリスト)