――ある時期、引き出し業者を礼賛するようなテレビ番組すらありました。これについては、どうお考えですか。
望月 日本は家族主義が強すぎて「家族のために個人が犠牲になるのは仕方ない」という発想と親和性が高い。これを斎藤環氏(精神科医、筑波大学教授)は「ヤンキー文化」と呼んでいますが、私も同感です。
2016年3月21日に放送された『ビートたけしのTVタックル』(テレビ朝日系)で、引き出し業者がひきこもりの方を強制的かつ暴力的に拉致したことについて礼賛するような内容がありました。特に日本人は根性モノやスパルタ教育が好きだと感じます。劇的な方法で人間が根源的に大きく成長するというストーリーを好む傾向にあります。鬼監督が来て野球でもやっていれば、さらに拍手喝采だったのでしょう。
実は、親御さんもお子さんがひきこもったらどうしたらいいかわからない。解答を持っていないのです。そのため、藁にもすがる思いで「業者なら答えを持っているのでは」と考えて頼るケースがあります。
次に、お子さんがひきこもるようになると家の中がピリピリして安心できないという現実もあります。そのため、「厄介払いしたい」という気持ちも、残念ながら背景に存在することがあります。
さらに、親御さんはお金で解決することで一種の贖罪をしたいという気持ちもあるでしょう。今回は約570万円ですが、なかには1000万円以上を支払ったケースもあります。そういった背景もあり、親御さんのなかには引き出し業者を礼賛する風潮があることも否めません。
しかし、今回の提訴はそうした現状に一石を投じました。引き出し業者が拉致、暴力、監禁などを行ったことが被害者の口から明らかにされたことで、引き出し業者に対する風当たりは強くなったと思います。
ひきこもりの社会復帰に必要なこととは
――ひきこもりの方の社会復帰という問題は、根性論では解決しないということですね。
望月 ひきこもりの方を社会復帰させるには、ドラスティックな手法ではなく、長い時間をかけて地道に信頼関係を構築することが大切です。そして、自発的に「外に出よう」という気持ちに持っていくという流れが王道です。
社会のセーフティーネットは、すべての弱者を救済することはできません。もし、すべての社会的弱者を救おうとすれば、高負担・高福祉の社会になるでしょう。ひきこもりの方の多くは、働こうと思えば働けます。しかし、今の社会では生きづらさを感じているのです。
――最後になりますが、勝訴の可能性は。
望月 十分にあると考えています。Aさんの事案では、業者に約570万円を支払っていますが、その金額に見合う支援が行われていたかどうかを徹底的に追及します。引き出し業者は、「支援について受け止める期間」「規則正しい生活を送る期間」「社会人として自立して働く期間」に分けて自立支援を行っていると主張していますが、それは業者側が証明しなければなりません。たとえば、こちらとしては「生活改善として、いったいどのような支援を行いましたか」というふうに追及することで、勝訴を勝ち取るつもりです。
――ありがとうございました。
(構成=長井雄一朗/ライター)