――望月さんは、このような業者を「引き出し業者」と呼んでいます。全国にどれくらい存在するのでしょうか。
望月 統計データが存在しないため、すべてが明らかになっているわけではありません。しかし、いくつかの業者名はわかっており、一定数存在しています。ただ、今回の事案は氷山の一角。現在、情報共有のためのウェブサイトやメールアドレスを作成していますが、本日も相談が寄せられました。
今回の事案は、元警察官が業者の運営に携わっており、表向きは警察や行政と連携しているしっかりした支援団体であることをPRしています。しかし、黒幕は業者を設立した2人で、もともと引き出し業者に勤めており、独立して新たな引き出し業者を設立したという経緯だと聞いています。
こうしたビジネスは、思いつきでできるものではありません。この業者についてはわかりませんが、一般論として、私は、貧困ビジネスと同様に反社会的勢力のネットワークを感じています。表面上はクリーンな人間を代表にして、実権は反社会的勢力が握るという例もあるようです。
引き出し業者は全国に存在します。拉致についても手慣れています。一連の流れは、マニュアルがなければできないでしょう。この実態解明については、マスコミの方々の協力も必要です。
なぜ親は業者に頼る?1000万円払うケースも
――ひきこもりの問題は、なぜ放置されているのでしょうか。
望月 ひきこもりの問題は、医療と福祉のはざまで起きています。医療の対象にも福祉の対象にもならないからこそ、法律で報酬が定められておらず、このような業者が多額の報酬を請求する状況になっているわけです。要は、ひきこもり問題を監督する行政が存在しないのです。暴力の問題であれば警察ですが、親御さんや本人の同意書もあり、暴力行為を証明すること自体も難しい。詐欺として立件することも困難で、警察も介入しづらい問題です。
ひきこもり自体は思春期に発生することが多く、「登校拒否」「不登校」、そして「ひきこもり」という言葉に変わっていった経緯があります。長期化することも多く、今は30~40代のひきこもりも多く存在するなど高齢化しています。
ひきこもりの問題は福祉の領域であり、介護のような制度を整備して国が税金を使って支援する態勢を整えるべきです。「好きでひきこもっているのだから、国の支援は必要ない」という意見もありますが、ひきこもりの方が社会参画できないことは社会的損失にもつながります。ひきこもりの問題は厚生労働省が管轄して、支援のあり方についてガイドラインを普及させた上で、しっかりと業者を指導していくことが望ましいでしょう。
親御さんが元気なうちはひきこもりの方を養うことができますが、親御さんに何かあれば、生活保護受給者になる可能性もあります。ひきこもりの方が社会で働くことは生活保護受給者の減少にもつながり、社会全体の向上にも寄与するため、ひきこもり支援は十分な合理性があると考えます。