24時間営業など、加盟店のコンビニ本部への不満が大きな話題となっている社会情勢を受け、公正取引委員会が5万7524店にも及ぶ大手コンビニエンスストアチェーンの全加盟店を対象に実施した「コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査」の結果が、9月に報告された。そのポイントは以下の通りであった。
・経営状況…「順調である」といった肯定的な回答が28.2%である一方、否定的な回答は44.7%。
・仕入れ数量の強制等…「意に反して仕入れている商品の有無」に関して51.1%があると回答。その理由として、「契約を更新しない、解約すると言われた」などが多数。
・見切り販売の制限…「直近3年間に見切り販売を制限された経験はない」と88.0%が回答。しかし、70.0%の加盟店はシステム上の問題などにより見切り販売を行っていない。
・年中無休・24時間営業…「深夜帯は赤字」77.1%、「人材不足を感じる」93.5%、「引き続き24時間営業を続けたい」33.2%、「時短営業の交渉に本部が応じない」8.7%。この点に関して、「優越的地位の濫用に該当し得る」と公正取引委員会はコメントしている。
・ドミナント出店…1次商圏内のコンビニ数:平均4.0店。67.2%のオーナーが「コンビニが多い」と回答。また、周辺に追加出店されたオーナーのうち、「本部からは何も提案されなかった」との回答が62.3%。この点に関して、「優越的地位の濫用に該当し得る」と公正取引委員会はコメントしている。
こうした調査結果を踏まえ、公正取引委員会は大手コンビニ本部に対して、加盟店との取引改善を求め、11月末までに改善報告書が大手コンビニ本部から提出された。筆者は、長きにわたり、コンビニ本部と加盟店における信頼関係の構築は重要なテーマであると考えており、どのような改善提案が出てくるのかと、興味深く待っていた。
しかしながら、例えば、セブン-イレブンでは、まず基本認識として、「公正取引員会により公表された様々な事柄は、当社が社会の変化・価値観の変化に対応し切れていなかったことを示すものになっていると認識する必要があること」と記載しているものの、自主点検を通じて明らかになった問題は「加盟店に対する説明における社員間の差異」「説明に対する加盟店間におけるける差異」「フランチャイズビジネスへの社員の理解不足」などであった。
つまり、基本的なシステム自体に問題はなく、単なる運営上の問題であるといった認識にすり替わり、よって改善策は「加盟候補者への事前説明における一部映像化」「社員教育の充実」「オーナー様専用相談窓口の設置」など、小手先の業務改善レベルにとどまっていた。
ローソン、ファミリーマートを含め、大手コンビニ3社の対応は、一言でいえば“事なかれ主義的改善”であり、本部と加盟店の関係を抜本的に改善するような提案は見当たらなかった。
ミニストップの覚悟…利益を分かち合う真に対等な関係構築
こうしたなか、業界4位のミニストップは、本部と加盟店の関係を抜本的に改革する「ミニストップパートナーシップ契約」という大胆な方策を打ち出している。結論を先に述べれば、“利益を分かち合う、真に対等な関係”の構築を目指すというものである。
通常、コンビニのフランチャイズでは、売上から仕入れ原価を引いた加盟店の粗利益に対して、本部が一定割合をロイヤリティとして徴収する仕組みとなっている。よって、仮に人件費や廃棄ロスなどにより加盟店が赤字であっても、本部は一定の収益を確保している。
しかし、ミニストップの新たなフランチャイズ契約である「ミニストップパートナーシップ契約」においては、加盟店の粗利益から人件費や廃棄ロスなどの店舗営業経費と固定費を差し引いた事業利益を、加盟店と本部で分け合う仕組みになっている。つまり、加盟店が赤字の場合、本部の儲けもなくなるという実にフェアな関係が構築される。
ミニストップは、改善報告書において、“当社は、加盟店との契約を「フランチャイズ契約」から「ミニストップパートナーシップ契約」に変更することにより、社会環境の変化への対応を進めるとともに新しい時代の要請に積極的に応え、コンビニエンスストア事業の新たなビジネスモデルを創造し、企業の社会的責任を果たしてまいります。”と述べている。
こうした改革により、多くの効果が見込まれる。まず、従来、廃棄ロスを恐れ抑え気味であった仕入れの量が増加し、店の品ぞろえが充実することが期待されている。さらに、加盟店においては、自らの取り分が増加するため、接客などのサービスの向上、売り上げ増を目指した顧客や商品情報の本部へのフィードバックなどにも、これまで以上に主体的に取り組むようになるだろう。
また、本部も従来のフランチャイズ契約と異なり、加盟店が黒字にならなければ収益を上げられないため、例えば24時間営業やドミナント出店に関しても慎重になるだろう。つまり、加盟店の粗利益ではなく、最終的な利益を本部と分かち合うという改革により、コンビニにかかわる多くの問題は自然に解消していくということである。
このように最終的な利益を加盟店と本部で分かち合うという、真に対等な関係は、さまざまなメリットを生み出す。もちろん、本部にとってはリスク拡大となるが、本来、加盟店をしっかり儲けさせてこそのフランチャイズであり、覚悟をもって引き受けるべき当然のリスクであろう。こうした真に対等なフランチャイズの仕組みが、ほかのコンビニはもちろんのこと、世の中全体に広がっていくことを期待したい。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)
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