ベア社は自然派の基礎化粧品(ミネラルファンデーション)という専門分野で67%のシェアを有しており、テレビショッピングなどのダイレクトマーケティングを積極的に展開しているとの触れ込みだった。ベア社の08年12月期の売上高は575億円、営業利益は181億円、純利益は101億円をあげていた。資生堂は11年3月期からベア社の収益を連結決算に織り込むとしてきた。
しかし、前田氏の期待通りにはならなかった。その原因は(1)北米のダイレクト事業(テレビショッピングなど)が買収時の実績を下回って推移したこと。(2)化粧品の小売店の拡大で苦戦したこと。(3)成長期待の大きい中国へのベア社の製品の投入を薬事法上の問題から見送らざるを得なかったーーことなどだ。特に、直近、数カ月は売り上げが計画を大幅に下回った。
4月に入ってベア社の長期計画を見直した。約30カ国で展開している店舗の閉鎖を断行することにして、これに伴い、のれん代を減損計上したという。前田社長は会見でベア社について「2度と損失を発生させない」と述べたが、まだ、571億円ののれん代相当分が残っている。高額で買収したツケが回ってきたのだ。
名誉会長らの長老や社外取締役からは、100%を超える配当性向(タコ配)を是正し、ベア社ののれん代を早期に減損計上することを求める声が強かったという。ベア社の買収や実力以上の高率配当の継続は、前田社長の時代に行われてきたことだ。これら一連の“負の遺産”を作り出した張本人の手で、損失処理させるために前田氏を社長に復帰させたというのが、ことの真相のようだ。
前田会長兼社長は、これまでの全方位型経営から「選択と集中」へと大きくカジを切る。集中する領域として前田氏は日本、中国、米ベア社を挙げた。中国とベア社は同氏がことのほか力を入れてきた案件だ。資生堂の14年3月期の売上高は前期比4.8%増の7100億円、営業利益は45.9%増の380億円を計画。最終利益で200億円の黒字回復を目指すが、日本も中国も、そしてベア社も光明は見えてこない。
“負の遺産”の解消に一定のメドをつけた段階で、ショートリリーフ役の前田社長は降板。創業家や社外取締役が推す人物が新しい社長として登場するというシナリオだ。
誰がトップになろうと、古くからの成功体験に縛られた旧態依然としたビジネスモデルから脱却するのは至難の業だろう。
(文=編集部)