同社は、対外的に配当性向(純利益に占める配当金の割合)40%を標榜してきたが、これは一流企業という体面を保つためで、実力以上の配当をしてきたといえよう。配当性向は4年連続で100%を超えていた。前期の配当性向は137%。大幅に減配した今期の配当性向は、ようやく39.8%となる。
ある期間に上げた利益を上回る配当金を外部に流出させてきたわけだ。タコが自分の足を食べるようなもので、こうした無理に無理を重ねた配当のやり方を“タコ配”という。
4月1日から社長を兼務している前田新造会長(66)が、自らが作り上げた仕組みを含む“負の遺産”の解体の第1弾が今回の減配なのである。
末川久幸前社長(54)が就任わずか2年で退任し、前田会長が社長に復帰するという異例のトップ交代になったが、「体調不良」という漠然としない退任理由に怪文書が乱れ飛んだ。
ここへきて前田氏が後継として選んだ末川・前社長の退任の舞台裏が、徐々に明らかになってきた。
キングメーカーはやはり、創業者一族で元社長の福原義春名誉会長(82)だった。2012年10月に資生堂の株価が10年ぶりに1000円の大台を割り込んだ。この頃から通常は経営に口を挟まない福原氏が危機感を募らせ、経営について発言するようになったという。創業家の発言は“天の声”だ。
前田氏と末川氏は、二人三脚で経営に取り組んできて結果を出せなかったのだから、前田氏が一緒に引責辞任するのが筋だが、4月、社長にカムバックした。これが最も不可解なところだったが、決算の数字がその理由を端的に物語った。
4月26日、13年3月期の連結決算を発表した。国内の販売不振に加え、2ケタの成長を続けてきた中国市場が反日デモの影響により、極端に減速。売上高は前年同期比0.7%減の6777億円、本業の儲けを示す営業利益は同33.4%減の260億円となり、最終損益は147億円の赤字(前の期は145億円の黒字)に転落した。最終赤字は8年ぶり。米国の化粧品子会社、ベアエッセンシャル社(以下ベア社と略)ののれん代として、286億円の特別損失を計上したことが響いた。
株式市場ではベア社の減損損失は想定外だった。株価は13年3月期の業績悪化を織り込み済みで、14年3月期の業績改善を期待する形で持ち直していた。円安メリットに加え、鎌倉工場の閉鎖とベトナム工場への生産移管、人件費削減などの構造改革の寄与を期待して、4月24日には年初来高値1584円をつけた。株価は昨年来安値の938円(12年10月11日)の1.7倍に回復した。
高値を更新した4月24日の取引が終了した後、資生堂は13年3月期連結決算の業績予想の下方修正を発表した。最終損益は今年1月時点に予想していた105億円の黒字から、一転して147億円の赤字となった。13年3月期の業績予想を下方修正するのはこれで4回目だった。
赤字転落を受けて、資生堂の株価は急反落。4月26日には、一時1366円(前日比150円安)に下落した。1584円の高値から、わずか2日間で218円、14%もの急落した勘定だ。株価を急落させたベア社の問題が、前田氏が社長に復帰した理由だった。同氏が社長時代に、グローバル戦略の柱に据えるために買収した化粧品会社だったからだ。のれん代の減損損失は、いわば“負の遺産”の解体の第2弾である。
10年3月、米サンフランシスコの化粧品会社ベア社の買収を完了した。買収総額は19億ドル(約1800億円=当時の為替レートで換算)。TOB(株式公開買い付け)による100%の株式取得で17億ドル、債務の引継ぎ分が2億ドルだった。
資生堂の09年3月期の売上高は、6900億円だ。実に、売り上げの26%に相当する大型買収と話題になった。しかも、株式交換による買収でなく、手元資金300億円と銀行借入金1500億円を使った。これだけのカネが流出した。
TOB価格は3カ月の平均株価に対して40.8%のプレミアム(割り増し金)をつけた。「買収価格が高すぎるのではないか」とのアナリストの疑問に前田社長(当時)は「高い収益力と将来性を考慮した極めて妥当な(TOB)価格」と説明した。