大手うどんチェーンの「丸亀製麺」と「はなまるうどん」。2000年創業の両チェーンは、いわずもがなライバル企業同士である。かつては店舗数で勝っていた「はなまる」を2009年には「丸亀」が超えるなど、お互いに追いつけ追い越せの熾烈な競争を繰り広げているのだ。
そんな両チェーンについて、インターネット上では“「丸亀」の「中」をイメージして「はなまる」で「中」を頼むと、丸亀の「大」くらいの麺量が来て大変なことになる”と、まことしやかに囁かれているのだ。
かけうどんを徹底比較
その噂を検証するため、筆者が実際に店舗に足を運び、「丸亀」の「かけうどん(温)」と、「はなまる」の「かけ(温)」を注文。両チェーンの違いをこの目で実際に確かめてみた。
はじめに、「丸亀」で「並」を注文してみた。麺250g、300円(内容量は店員への直接ヒアリングに基づく/以下同)。かけうどん単品だとやや質素だが、余計な盛り付けがない分、うどん本来の食感を味わうことができる。やや薄味のダシもおいしい。
次に、「はなまる」の「中」。麺440g、352円。前述の「丸亀」の「並」と比べると麺の量の違いは一目瞭然。たしかに、「中」というサイズ名に似つかわしくないほどの量の麺が入っている。
味のほうも問題なくおいしいのだが、この量でトッピングなしだとさすがに変化のない味に飽きてしまい、これだけで食べきるには限界が……。ということで、天ぷらを追加注文し、おいしく完食した。
では、「はなまる」の「中」に対抗して、今度は「丸亀」の「並」のもう一つ上のサイズである「大」を注文してみた。
その内容量は、麺375g、410円。なんと、「丸亀」の「大」でもなお、「はなまる」の「中」の内容量のほうが多く、にもかかわらず、「はなまる」の「中」のほうが低価格なのである。
こうして、実際に両チェーンのかけうどんを注文してみたところ、たしかにコストパフォーマンスでは、はなまるうどんが圧倒していた。
さて、ここで両チェーンを比較しやすいように、かけうどんのサイズと価格を並べてみよう。
・丸亀:並250g(300円)、大375g(410円)、得500g(520円)
・はなまる:小220g(242円)、中440g(352円)、大660g(462円)
こう見ると、サイズ表記の違いも顧客が受ける印象に影響を与えているのかもしれないが、それはそれとして、「はなまる」の麺の増加率は大きい。「小」サイズの内容量を基準に、「中」はその2倍、「大」は3倍と増えていく。一方で、「丸亀」はそうではない。1.5倍、2倍と増加幅は緩やかだ。
また、「はなまる」は、昨年5月にかけうどんを全サイズ値上げしたのだが、それでもなお「中」以上の大きさであれば、「丸亀」よりおトクとなっている。
しかし、なぜこのようにコスパに差が生まれるのだろうか。
「丸亀」の麺量が少ないのは店舗内で麺をつくっているから
フードアナリストの重盛高雄氏にその理由を解説していただこう。「丸亀」と「はなまる」の麺の量、そしてコスパに差が生まれる理由はどういったところにあるのだろうか。
「最大の理由は製麺方法が異なる点でしょう。『はなまる』は全店舗の麺をセントラルキッチンでつくり各店舗に送っています。つまり、『はなまる』はセントラルキッチンから麺がどんどん送られてくるので、店舗では麺を消費しないといけない。『はなまる』としては“お客さんに麺をたくさん食べてもらいたい”という気持ちが強く、しかし生ものである麺を長い時間置いておくと品質が劣化するため、サイズが上がるごとに1玉ずつ麺の量を増やしていると考えられます。
それ以外にも、『はなまる』がセントラルキッチンを設けている狙いとしては、全国一律の味を維持したいという点にあります。というのも、全国各地にある店舗には気候の差があるので、店舗によって味が変わってしまうんです。それを防ぎ、全国共通の味をお客様に提供するための手段でもあるのでしょう」(重盛氏)
「はなまる」は、全国に点在するセントラルキッチンでまとめて麺をつくるという製造方法によって、麺を量産していた。そして、そうすることで均一化された、安心・安全の味をお届けすることに、「はなまる」の狙いはあったというわけだ。
「対して『丸亀』は、製麺を担当する職人が各店舗におり、店舗内で小麦粉から麺をつくっています。さらに、『麺匠』と呼ばれる達人が各店舗を回って監修していて、“丸亀製麺が考える味に仕上がっているのか”というのをチェックしています。その『麺匠』は各店舗の職人に麺の打ち方や茹で方などの指導もしているのです。
ですから、大量生産をせずに各店舗でつくられる麺は、各サイズ決められたグラム数を測って器に入れています。『丸亀』は“生きたうどん”と称した高クオリティのうどんの提供を実現するために、そのようにしているのでしょう。
『丸亀』と『はなまる』のそういった違いは、“お客さんに対して何を一番に提供したいか”という目線の違いなのではないでしょうか」(重盛氏)
両チェーンともに味の品質にはこだわっているとは思うが、“質”と“量”のどちらに重きを置くかで、こういった特徴の差が生まれているといえそうだ。
さて、単純に麺の量で比べると、「はなまる」のほうがおトクなことは間違いない。一方で、「丸亀」ならではの魅力はほかの点にもあると重盛氏は言う。
「『丸亀』はトッピングの種類の多さが特徴的で、お店によってはレパートリーが異なる場合もあります。そういった各店舗固有のトッピングを楽しめるというのは、一つの魅力ですね。かけうどんだけを頼んでそのまま食べる方は少数でしょうから」(重盛氏)
両チェーンをこうして比べてみると、それぞれの良さがあることがおわかりいただけただろう。
はなまるうどんは2019年に500店舗、丸亀製麺は2018年に1000店舗の展開をそれぞれ達成している。いまだ右肩上がりの成長を続ける両チェーンには、今後もお互いに切磋琢磨していくことを期待したい。
(文=二階堂銀河/A4studio)
※本記事の取材は緊急事態宣言発令前に行いました