希望の党が掲げる「企業内部留保への課税」は、理論的にあり得ない…会計を知らなすぎる
企業の内部留保が何かとやり玉に挙げられている。日本全体で内部留保は400兆円にも上るため、「利益をため込みすぎ」ということらしい。そのため、「賃上げに回せ」という声もよく聞かれる。過剰な内部留保を抑制するために、内部留保に対する課税も繰り返し議論されている。先日の衆議院総選挙でも、小池百合子氏は希望の党の政策に内部留保課税を掲げていた。
これらの内部留保に関する議論の多くは、大きな勘違いに基づいている。政治家を含めて、あまりにも会計を知らなすぎる。
内部留保が多いからといってお金があるわけではない
会社が1年間で生み出した利益は、基本的に株主に対する配当に使われる。ただし、多くの場合は利益のすべてを配当に回すことはせず、一部は翌年度の事業資金に使うために繰り越す。これが利益の内部留保だ。
よく言われる「多くの内部留保があるんだから賃上げに回せ」という理屈は、2つの点で間違っている。
まず第1に、人件費は利益を源泉として支払われるのではないということだ。人件費を差し引いた後が利益なので、話の順序がまったく逆になっている。事後的に人件費を増やしたところで、今ある内部留保はどうにもならない。
ただし、人件費を増やせば利益は減るから、将来に向かって内部留保の増加を抑制する効果はある。しかし、そうなると今度は「○○会社、減益!」などと叩かれるに決まっているし、そういうことを望んでいるわけでもないだろう。
少々立ち入ったことを言うと、「今どきは金銭的経営資源の提供者である株主よりも、知的経営資源の提供者である従業員のほうが重要だ」とするドラッカーのポスト資本主義的な考え方に立てば、人件費を優先させて利益を減らしたっていいのだが。
話を戻すと、「多くの内部留保があるんだから賃上げに回せ」という理屈の第2の誤りは、内部留保が多いことと現預金があることを混同していることだ。「利益をため込みすぎている」という言い方の根底には、この誤解がある。
確かに内部留保した瞬間は、その額に相当する現預金が会社にあるだろうが、その現預金をそのまま置いておく経営者はいない。内部留保された資金は設備投資などに使われて、とっくに姿を変えている。内部留保が多いことに対して何か言うとするなら、「もっと株主に配当しろ」か「自社株買いしろ」だ。いずれも内部留保を財源とする株主還元なので、このいずれかなら内部留保を減らすことになる。