3月5日付日本経済新聞に『ホンダ、世界初「レベル3」』という大見出しの記事が掲載されていた。“世界初”という言葉には、誰もが大きな夢や希望を抱いてしまう。しかしながら、ビジネスの視点からは手放しには喜べない場合も少なくはない。
3月4日付のホンダのニュースリリースで、“自動運転レベル3”に該当する「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」を搭載した新型「LEGEND(レジェンド)」が5日に発売されると発表された。メーカー希望小売価格は1100万円となっている。
Honda SENSING Eliteのシステムの開発においては、安全性・信頼性を重視し、運転シーンを想定した1000万通りのシミュレーションを重ね、またテスト車両を用いて高速道路130万kmを走行する実証実験を繰り返している。そのHonda SENSING Eliteの主たる特長として、以下4点が強調されている。
・ハンズオフ機能:高速道路や自動車専用道で、一定の条件を満たすと、ドライバーがハンドルから手を離した状態でも、システムが運転操作を支援する機能。
・トラフィックジャムパイロット(渋滞運転機能):ハンズオフ機能付車線内運転支援機能で走行中、渋滞に遭遇すると、一定の条件下でドライバーに代わってシステムが周辺を監視しながら、アクセル、ブレーキ、ステアリングを操作する。この機能により、ドライバーはナビ画面でのテレビやDVDの視聴、目的地の検索などのナビ操作を行うことができ、渋滞時の疲労やストレスが軽減される。
・緊急時停車支援機能:ドライバーがシステムからの操作要求に応じ続けなかった場合、左車線へ車線変更をしながら減速・停車を支援する機能。
・ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI):ドライバーへ作動状態、走行状況、システムからの操作要求をわかりやすく瞬間的に認知させるインターフェイス。
自動運転の“レベル3”とは?
自動運転のレベルは、厳格には6つに分類される。まず、レベル0は運転の自動化がない状態を意味する。レベル1は運転支援の段階であり、自動ブレーキなどの機能が該当する。レベル2は部分運転自動化の段階であり、高速道路において車線を維持しながら前のクルマに付いて走ることが可能となる。この段階までは、運転主体および責任の所在は運転手となる。
レベル3は条件付運転自動化の段階であり、先に紹介したHonda SENSING Eliteの機能が主たる内容となっている。自動運転システム作動中の事故は、システム側の責任となる。レベル4は高度運転自動化の段階となり、特定条件下という制約はあるもののシステムが運転を行う。レベル5は完全自動運転、つまり常にシステムが運転を実施する。
今後の自動運転市場における日本の存在感
みなさんはこうした自動運転に対して、どのように思われるだろうか。さらにいえば、買いたいと思うだろうか。たとえば、レベル1の自動ブレーキは事故の防止に大きく貢献する可能性が高く、欲しいと思われる人も多いのではないだろうか。実際、2008年にスバルが発売した「EyeSight(アイサイト)」は大きな話題となり、売り上げも好調に推移した。しかし、レベル2や3に関しては、もちろん便利な場合もあるだろうが、それに対して大きなコストが発生するとなると、購入には至らないケースも多いのではないか。
我々が強く惹かれる利便性は、システムにより運転されるレベル4以上になるだろう。ということは、自動運転市場の本格的な拡大もレベル4以降と捉えられる。
レベル3においては日本のホンダが世界初の座を勝ち取ったが、急激な市場拡大が予想されるレベル4の開発においては、残念ながら米中の企業が先行している。もちろん、世界初のレベル3はホンダの技術力の高さにより実現できたのであろうが、逆の見方をすると、米中企業は当初より大きな果実となるレベル4以上のみに特化し、レベル3は眼中になかったのかもしれない。
液晶テレビ、携帯電話、ソーラーパネル、こうした商品の創成期、日本メーカーは国際市場で大きなシェアを保持していた。しかし、市場が拡大し、これから大きな収穫が得られるという段階では、中国や韓国などの海外メーカーにことごとく大きなシェアを奪われている。自動運転においては「同じ轍を踏むことがないように」と、祈るばかりである。
(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)
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