トヨタ「ヤリスクロス」がSUVのベストセラーに!ライバル車より17万円安い理由とは
どんなクルマなのか?
トヨタ自動車「ヤリスクロス」は、コンパクトカーの「ヤリス」と共通のメカニズムを使うコンパクトサイズのSUVです。全長は4180mmと短く、街中でも運転しやすいです。外観は直線基調で存在感を強めました。
ヤリスクロスは2020年8月に発売されて以来、売れ行きが好調です。日本自動車販売協会連合会の登録台数はヤリスとヤリスクロスを合計して公表されますが、ヤリスクロスだけでもSUVのベストセラーになっています。2020年11月から2021年1月には、1カ月平均で9000台から1万台を登録しました。ヤリス全体の約半数をヤリスクロスが占めています。
人気を得ている理由
高い人気を得ている一番の理由は、運転しやすいコンパクトなボディと、カッコイイ外観の両立です。最小回転半径は5.3mに収まり、小回りの利きも良いです。エンジンは直列3気筒1.5Lで、ノーマルタイプとハイブリッドを選べます。
価格が割安なことも魅力です。たとえば、ライバル車の日産自動車「キックスX」はハイブリッドのe-POWERを搭載して275万9900円です。その点でヤリスクロスハイブリッドZは、258万4000円なので17万円ほど安いです。
ヤリスクロスの価格が安い背景には、2つの理由があります。まずはホイールベース(前輪と後輪の間隔)の数値などがヤリスと等しいこと。他のコンパクトカーをベースにしたSUVに比べると、コスト低減が可能になりました。
2つ目の理由は、トヨタにはSUVが多いことです。同じトヨタの「C-HR」はヤリスクロスよりも一回り大きいですが、ハイブリッドSの価格は274万5000円です。仮にヤリスクロスハイブリッドZの価格がキックスXと同程度になると、上級車種のC-HRと同額になってしまいます。いわば身内同士のヒエラルキーのために、ヤリスクロスは価格を高められませんでした。これは所帯の大きなトヨタならではの事情です。
気になる8つのポイントチェック&星取り採点
(1)居住空間の広さとシートの座り心地
★★☆☆☆
前席は快適ですが、後席は足元空間が狭いです。家族で乗車するときは、後席の広さや乗降性を確認しましょう。
(2)荷物の積みやすさとシートアレンジ
★★☆☆☆
SUVとしては荷室が狭いです。床面積は相応にありますが、リアゲートを寝かせたので、背の高い荷物は積みにくいです。
(3)視界や小回り性能など運転のしやすさ
★★★★☆
全幅は1765mmと少しワイドですが、ボディは短くて小回り性能も良いです。ボンネットもしっかり見えます。
(4)加速力やカーブを曲がるときの安定性
★★★★☆
SUVとしては良く曲がり、峠道などを走りやすいです。後輪の接地性も優れ、危険回避の操作も落ち着いて行えます。
(5)乗り心地と内装の質感などの快適性
★★★☆☆
乗り心地は低速域を中心に硬めに感じられ、路上の細かなデコボコを伝えやすいです。内装に不満はありません。
(6)燃費性能とエコカー減税
★★★★★
2WDのWLTCモード燃費は、ノーマルエンジンが18.8~20.2km/L、ハイブリッドは27.8~30.8km/Lと優秀です。
(7)安全装備の充実度
★★★★☆
衝突被害軽減ブレーキは自転車も検知できます。右左折時の直進車にも反応するなど、安全性を高めました。
(8)価格の割安感
★★★★☆
ライバル車のコンパクトSUVに比べて割安です。ヤリスのようなコンパクトカーに近い感覚で購入できます。
選ぶときに確かめたい3つのメリット
・コンパクトでボディの四隅もわかりやすく、車庫入れや縦列駐車も容易です。
・安定性と動力性能に余裕があり、4WDは悪路走破力を高める機能も備えました。
・ラクに車庫入れできるオプション装備など、先進機能も豊富に選べます。
後悔しないための3つの要チェックポイント
・乗り心地が硬めで、登坂路などではエンジンノイズも高まりやすいです。
・ディスプレイオーディオの使い勝手は、ユーザーによって評価が異なります。
・後席は足元空間が狭めで、荷室は高さが不足気味。購入前に確認しましょう。
こんなユーザーにおすすめ
後席が狭いので、ファミリーユーザーには推奨できません。1~2名で乗車する用途に適します。後席を畳んだときは、デッキボードの装着によって荷室の床を平らにできるため、荷物の出し入れがしやすいです。運転支援機能も充実しており、高速道路を使った長距離ドライブも快適に楽しめます。
今後のモデルチェンジ予想
発売されたのが2020年8月で設計が新しく、当分の間は大規模なモデルチェンジは行いません。しかし、XやGをベースに、割安な価格でLEDヘッドランプなどを装着した特別仕様車を追加する可能性はあります。
最近の販売状況と安く買うための商談方法
売れ行きは、ハッチバックボディのヤリスを上回るほど好調です。多額の値引きは無理ですが、トヨタの販売店は大半の地域で4系列あるため、ヤリスクロス同士で購入条件を比較すると良いでしょう。
リセールバリュー/数年後に売却するときの価値
コンパクトSUVは人気のカテゴリーで、ヤリスクロスの注目度も高いです。新型車なので、購入して3~5年後に売却するときも中古車市場の流通台数は多くないです。従って好条件で売却できるでしょう。
残価設定ローンの残価率(新車価格に占める残存価値の割合)も、ハッチバックのヤリスに比べると高いので、月々の返済額を減らせます。売却時の条件は優れた部類に入ります。
これが結論!/このクルマの総合評価&コメント
★★★★☆
1~2名の乗車が中心で、運転感覚の軽快なSUVを求めるのであれば、ヤリスクロスは選ぶ価値の高いSUVです。販売店で試乗したときは、後席と荷室の広さ、エンジンノイズと乗り心地、ディスプレイオーディオの使い勝手などに不満を感じないか確認しましょう。
ノーマルエンジンとハイブリッドの選択は、基本的には走行距離に応じて決めれば良いです。GとZの場合で、ハイブリッドの価格はノーマルエンジンよりも37万4000円高いですが、2020年度の登録なら購入時に納める環境性能割が非課税になります。税額の違いにより、実質差額は30万円に縮まります。
そして、実用燃費がWLTCモードとした場合、レギュラーガソリン価格が1L当たり145円であれば、1km当たりの走行単価はノーマルエンジンのZが7.7円、ハイブリッドZは5.2円です。ハイブリッドが燃料代の節約で30万円の実質差額を取り戻せるのは、12万kmを走った頃です。
損得勘定でいえば、1年間に1.5万kmを走るユーザーなら8年間で差額を取り戻せます。1年間の走行距離が1.5万kmを超えるか否かで、ノーマルエンジンとハイブリッドの選択を決めれば合理的です。
ただし、ハイブリッドはノーマルエンジンに比べて加速がなめらかでノイズも小さいです。燃費ではなく、走りの魅力も含めてハイブリッドを選ぶことも可能です。最終的な判断は、両方を乗り比べてから考えましょう。
グレードは機能や装備と価格のバランスで見ると、ノーマルエンジンを搭載するZ(221万円/2WD)、あるいはハイブリッドZ(258万4000円/2WD)を推奨します。未舗装路や雪道を走る機会の多いユーザーは、23万1000円を上乗せして4WDを選ぶことも考えましょう。
(文=渡辺陽一郎/カーライフ・ジャーナリスト)