ビジネスパーソン向け交流サイト(SNS)「Wantedly」を運営するウォンテッドリーは9月14日、東京証券取引所マザーズ市場に上場した。公開価格は1000円。「初値は上場3日目まで持ち越しか」(新興市場に強い証券会社)と取り沙汰されるような前人気ぶり。それでも上場2日目の15日に公開価格の5倍の5010円の初値をつけた。20日に6310円の高値(公開価格の6.31倍)につけた後、急落。上場後の安値は10月10日の3700円。初値と比較して26%安となった。
しかしその後、株価は反転して暴騰を続ける。10月24日、上場来最高値の8640円をつけた。上場来安値の実に2.3倍だ。13日の取引終了後、11月30日を基準日として1株を2株に分割する株式分割を実施すると発表。投資単位株(100株)当たりの投資金額を引き下げることで株式の流動性の向上と投資家の層の拡大を図ることが目的だとした。株式分割を材料視した買いが入り、10月27日の取引は7150円で終えている。
ウォンテッドリーを率いる仲暁子CEOは、認知心理学者でデューク大学の研究者となった母に同行して米国の小学校に通い、研究者の両親のもとで小学校時代からインターネットに親しんだ。高校時代をニュージーランドで過ごした後、京都大学経済学部に入学した。学生時代にサイバーエージェントの藤田晋社長の著書を読み、起業に興味をもったという。学内向けフリーペーパーを創刊するなど、いくつか事業を手掛けた。
2008年4月、米投資銀行ゴールドマン・サックスに入社し、海外投資家向けに日本株を売り込む営業を担当した。2年弱で退職し、北海道で研究者をしている母の許で暮らしながら漫画家を目指す。ウェブサイトを立ち上げ、サービスを宣伝するために参加した起業家向けイベントで偶然フェイスブックジャパンの社員に出会ったのをきっかけに10年7月、同社に入社した。フェイスブックも半年ほどで辞め、東京・原宿の自宅で1人で起業。10年9月にフューエルという会社を立ち上げた。これが現在のウォンテッドリーだ。
友人の助けを借りて自らプログラミングを行い、12年2月に気軽に会社を訪問できるサービスを始め、フェイスブックと提携した。ウォンテッドリーはフェイスブック上での求人・求職のための交流サイトであり、企業は月額3万円から求人広告を出すことができる。
その華麗な経歴とメディアへの露出度の高さから、仲氏はIT業界で目立つ存在となった。上場時(17年6月時点)に仲氏が発行済株式の71.77%を保有。2位はサイバーエージェントの11.55%。以下、DeNA共同創業者の川田尚吾氏が6.64%、Gunosy取締役の木村新司氏が4.30%を保有するなど起業家で著名なエンジェル投資家が上位株主として名を連ねる。日本経済新聞社も1.21%保有する第6位株主だ。
Google検索から削除
このウォンテッドリーが、晴れの舞台である上場直前に「炎上」する騒動が起きた。上場直前の8月25日、同社について批判的な内容を書いたとされるブログがグーグルから削除され検索できなくなった、とネット上で話題になった。「掲載されている仲さんの写真が、当社の著作権を侵害している」とし、ウォンテッドリーが8月24日までに、米デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づいて、グーグルとツイッターに削除を申し立てたため、記事は25日朝までにグーグル検索から消えた。
DMCAはデジタルコンテンツに関する著作権の事実上の基準となっている。従来は自身のコンテンツが盗用された時、盗用したサイトの運営者がわかる場合に限って、直接削除要請することで盗用されたコンテンツを削除することができた。しかし、サイト運営者がわからなかったり連絡が取れなかった場合、盗用されたコンテンツがネット上に残ってしまい、プロバイダー側にも損害賠償が発生する可能性がある。
そこで、この問題を解決するために2000年に米国でDMCAという連邦法が施行。これによって、プロバイダーに対して著作権侵害を申し立て、当該のコンテンツを削除することが可能になった。
ウォンテッドリーがDMCAに削除を申し立てたのは、ITベンチャー企業、INST社長である石野幸助氏のブログ記事「Wantedly(ウォンテッドリー)のIPOが凄いので考察」に掲載された仲氏の1枚の写真。この写真が無断で使用されたという理由で削除を求めたことがネット炎上を呼んだのだ。
上場初年度に当たる18年8月期の連結予想で、売上高16億2700万円(前期比26%増)、営業利益1億9400万円(同3倍)、純利益1億3400万円(同5倍)と大幅な増益を見込む。
ウォンテッドリーの飛躍に期待したい。
(文=編集部)