サッカーに関しては、素人と呼んでも差し支えない高田氏。ひたすらクラブの経営再建に徹することになるも、ふたを開けてみれば、そのシンプルな姿勢が功を奏したようである。
「私が社長に就任した当初、V・ファーレンは収支のバランスが合っておらず、選手の給料も払えないような状態でした。私は数カ月、サッカーの専門家としてではなく“一経営者”として現状を把握し、正常な形に戻すという努力を続けてきました。
また、クラブ運営をジャパネットが引き受けたところで、長崎県民のみなさんやファンのみなさんからすれば『V・ファーレンを強いチームにしてほしい』という願いは変わりません。私が考えていたのは、経営を安定させるのはもちろん、どうすれば監督と選手の気持ちを鼓舞し、J1昇格を目指してもらえるかということでした。
そうなるとやはり、監督と選手には余計な雑念を持たず、練習と試合に集中してほしいということになります。クラブ運営のことは会社が、サッカーのことはプロである監督や選手たちが、それぞれ役割をきちんとシェアしながら進めるのが最も効率的ですよね。私はみんなに『経営は私が立て直しますから、安心してください』と伝えました。それで監督の手腕、選手の努力の甲斐があって、それまで以上の力を発揮でき、J1昇格に行き着いたのだと思います」(同)
さまざまな施策を打ち、ホーム球場は大幅な観客増
クラブがJ1リーグ昇格を決めた試合で、本拠地のトランスコスモススタジアム長崎(諫早市)には、今季最多となる2万2407人もの観客が詰めかけていた。何がきっかけで、ここまで大勢のファンが足を運ぶようになったのだろうか。
「チームが試合に負けなくなって話題に上がってくれば当然、スタジアムまで応援に行ってみようかとファンも増えてきますよね。あとはサッカーを観るだけではなく、お客さんが試合前・試合中・試合後と丸一日楽しめる空間作りをするにはどうしたらいいのか、あちらこちらを視察して勉強しました。
たとえば、試合前においしいスタグル(=スタジアムグルメ)を味わえるようフードコーナーを活発にしてみたり、グッズの売り場を広げてみたり、子どもが遊べるような企画をしてみたり。試合のハーフタイムには花火をあげることもありましたし、J2としては珍しくスタジアムにLED看板を設け、臨場感を出しているというのもあります。そういった工夫を、コツコツと積み重ねてきたのです。