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千葉哲幸「フードサービス最前線」

快進撃「やっぱりステーキ」超ローコスト経営の秘密…低迷「いきなり!ステーキ」と真逆

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
快進撃「やっぱりステーキ」超ローコスト経営の秘密…低迷「いきなり!ステーキ」と真逆の画像1
2020年6月17日、吉祥寺の住宅街にオープンした東京1号店。

 ステーキの世界ではかつて一世を風靡した「いきなり!ステーキ」によって「ファストステーキ」という言葉が生まれた。これは商品が低価格という要素も含めて、早く提供され顧客はお手軽に利用できるという業態を確立したという証である。

「いきなり!ステーキ」の1号店は2013年12月にオープンした銀座4丁目店。当初「リブロースステーキ1g 5.5円」を300gで食べることを推奨する(1650円)など遊び心のあるメニュー構成を取っていた。以来、500店舗を全都道府県に展開するという急成長を遂げた。

 しかしながら、同チェーンを展開する株式会社ペッパーフードサービスは過剰投資に加え業績の低迷によって事業を縮小、同社の成長エンジンであった「ペッパーランチ」を2020年8月に85億円で売却した。とはいえ、ファストステーキという領域を築いたことは外食産業において大きな功績である。

 このファストステーキの領域で今注目されているのが「やっぱりステーキ」である。

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「やっぱりステーキ」のステーキは柔らかい赤身肉が特徴。

働きやすい動線設計により省力化を図る

「やっぱりステーキ」を経営するのは株式会社ディーズプランニング(本社/沖縄県那覇市、代表/義元大蔵)。2015年2月、那覇市内で3坪6席の規模でスタート。赤身肉のステーキ200gを1000円で提供するというスタイルがたちまち大ヒットして、月商280万円を売り上げた。2号店は20坪24席、日曜日定休、週6日営業、夜に商売をしている人たちが仕事を終えてから食事にやってきて、朝6時に満席となり、マックスで1日37回転という記録を持つ。沖縄には飲んだ後でステーキを食べるという「〆ステーキ」という文化があり、現在沖縄には24店舗を展開している。

 全国ではこの3月12日にオープンした静岡インター店で63店舗となった。静岡県では4店舗目となる。さらに3月末に八幡本城店(福岡県)、4月中旬に桑名店(三重県)のオープンが控えている。

 東京には昨年6月17日に吉祥寺の住宅街に出店。そして今年の2月11日にオープンした蒲田店が2号店となる。「今注目されている」と言いながら東京にまだ2店舗とは表現に矛盾があるようだが、これが「やっぱりステーキ」の本領なのである。

「やっぱりステーキ」は経営数値としてFLコスト比率(売上高に占める食材原価と人件費の割合)を65%にしている。一般的な60%より5%高い。内訳は原価率50%弱、人件費率は20%以下。大抵の店舗では、焼き場に1人、洗い場に1人、ホールに1人という体制、人件費率をうまくコントロールしている店は13%以下になっている。

「各店舗のレイアウトがコンパクトにできているので働きやすくなっています。これが5人とかに人数が増えると生産性が下がる」(同社代表の義元氏)

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さまざまな調味料が用意されていて顧客は好みで味付けを調整する。

居抜き物件、家賃比率5%とローコスト運営を徹底

 コストダウンを支えるポイントは、居抜き物件に出店していること。物件の中にある設備機器で使えるものは再利用して、減価償却費を抑えて初期費用を低くしている。吉祥寺店の場合、エアコン、食洗器、一部の冷蔵庫などは再利用していて、設備機器の譲渡金額は90万円で済ませている。

 さらに、家賃比率を引き下げている。これは一般的に10%であるが5%にしている。基本的に商品力が際立っている業態であるから、立地も超一等地である必要がない。吉祥寺店は住宅街の中にあり、表通りと比べると家賃は低い。テラス込みで27坪35席、客席を絞って20~23席となっているが、オープンしてしばらくの間は平日で300人、土日で400人が来店していた。

 このような仕組みをつくったのは沖縄4号店である。同店は35坪50席で、エアコン、厨房機器の設備譲渡費用がゼロ円でそのまま使った。内装費用は15万円、壁をオレンジ色に塗り、サラダ、ご飯、スープのカウンターをつくった。店をオープンした初月に1100万円、売上は伸び続けて1700万円になった。そして、4カ月もしないうちに投資回収を終えた。その後に出店した店の投資回収は早く、多くは2年程度で終えている。

 要するに、「やっぱりステーキ」が東京にまだ2店舗なのは、家賃の高いところには出店しない、という背景がある。

 メニューは「やっぱりステーキ」150g・1000円<サラダ・スープ・ご飯セット、以下同>(税込、以下同)をはじめ、イチボ、ヒレといった赤身肉のステーキを1000円というジャストプライスで提供、新メニューとして、溶岩石で焼き上げる「牛肉100%レアハンバーグステーキ」200g・1000円をラインアップしている。

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2月11日、東京2号店となる蒲田店で無料提供する1000食の弁当をつくっている様子。

1日限定1000円のステーキ弁当を1000食無料配布

 蒲田店ではオープン初日、1日限定で1000円の「冷めてもおいしいステーキ弁当」(150gのサイコロステーキ)1000食を無料で配布した。100万円の持ち出しである。その理由について義元代表はこう語る。

「この日をオープンすることになったのは、緊急事態宣言が2月8日に明けると想定していたからでしたが、それが1カ月延びてしまいました。出張で東京にやってくると街に元気がないのを感じています。そこで地元蒲田の皆さんに何かの形で貢献したい、喜んでいただいて元気になっていただきたいと、この企画を考えました」

 この企画を行う上で、保健所、区役所、警察などに届け出を行った。保健所の担当者からは「1000食無料配布とは、その店の規模では無理でしょう」と指摘されたというが、義元氏は「『やっぱりステーキ』ではこれまでオープン初日に800食ほどを売り切ることは普通に行われていて、たくさんのお客様に目配り、気配り、心配りで対応するノウハウがあります」と自認している。この日は沖縄からのヘルプも加わり、1000食の製造と配布のために18人のスタッフで対応した。

 同社でこの企画の告知をホームページとFacebookに投稿する程度にとどめてひっそりと行った。筆者は整理券が配られる9時に同店に赴いたところ、大きな行列や混雑もなく整然と配布されていた。店頭には「コロナに打ち勝て!! 大田区応援備金箱」を設置。弁当引換券を入手した人は次々と1000円札を投入していった。この募金は全額が大田区に寄付される。

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「1000円弁当、1000食無料配布」はひっそりと行われたが、時折それを求める人の列ができた。
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既存店は自動券売機で券を購入して席につく。これによって従業員はお金に触ることがなく、この部分での人件費は発生しない。

タブレットオーダーによって追加オーダーが増える

やっぱりステーキ」ではテイクアウト需要が増えてきている。顕著な例を挙げると、2月5日オープンした松山ロープウェー店はテイクアウト需要を想定して13席の客席数以上のキッチンを構成したところ、それが狙い通りとなり、一日の客数は260人あたりで推移していてうち50~60食がテイクアウトとなっている。デリバリーは行っていない。他の既存店では時短要請に従っているが、テイクアウト需要が高まるようになった。

 新しい試みとして、これまで精算を自動券売機による前払い制で行ってきたが、沖縄の直営店でタブレットオーダーと有人のセルフレジを導入、昨年12月にオープンした広島本通店(広島県)で同じ仕組みを導入した。タブレットオーダーにすることで、既存店の客単価が1300円のところ150円上がり1450円になるという。3月5日にオープンしたイオンモール新利府南館店(宮城県)ではタブレットオーダー、有人のクレジットと自動釣銭機で対応する。

 客単価が上がる要因として「自動券売機で食券を買う場合、後ろに人が並ぶとせかされているようで落ち着かないのでは。タブレットオーダーの場合はゆったりとした気分で食事ができて『替え肉』のオーダーが増えている」と義元氏は語る。「替え肉」とはお肉のお替りのことで、「やっぱりステーキ替え肉」100g・650円をはじめ、100g・500円~850円と5品目をラインアップしている。

 ローコストオペレーションという経営方針の根幹は揺らぐことなく、顧客満足向上に絶えず取り組んでいる姿勢は、今日のファストステーキのモデルとして位置付けられる。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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