巷では韓国経済に否定的な報道を目にする機会が多く、経済危機説も年中行事のように流布されている。確かに、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の配備で中国の逆鱗に触れ経済面での報復を受けていることは事実であるし、建設など一部の経済指標の調子が良くないのは事実である。またトップ不在など問題を抱える財閥もある。
しかし韓国経済全体を見れば好調を謳歌しており、一部の否定的な出来事だけで韓国経済を判断することは大局を見誤る。韓国経済を判断する際には、景気が良いのか悪いのか、経済に悪影響をおよぼしかねない構造的な問題があるのかないのかを見る必要がある。結論を先取りするならば、韓国の景気は良く、経済に悪影響をおよぼしかねない構造問題もほとんどない。すなわち、韓国経済は好調で盤石である。
まず景気からみてみよう。2017年7-9月期の実質GDP成長率は前の四半期と比較して1.4%増、年率換算で5.7%増であった。この数値はさすがに瞬間風速ではあろうが、17年の成長率が3%台に回復する可能性も高くなり、韓国経済の好調さを裏付ける数字である。景気が力強い背景には、輸出の好調がある。特に中国向けに勢いがあり、なかでもスマートフォンの部品となる半導体(メモリー)に勢いがある。そして、輸出に引きずられるかたちで個人消費や設備投資も堅調であり、理想的な景気拡大の姿となっている。
中央銀行である韓国銀行は10月に公表した2017~18年成長見通しの説明会において、中国によるTHAAD配備に対する報復は成長率を0.4%押し下げるとした試算を示したが、絶好調の中国向け輸出とその波及効果とを比べれば、気にするほどのものではない。また建設工事の指標は最近になって勢いが弱まったが、これは不動産価格高騰抑制策によるものであり、景気の好循環に水を差すインパクトもない。
このような景気の力強さを受けて、韓国銀行は11年6月以降、6年半ぶりに基準金利を引き上げた。基準金利は、16年6月から史上最低水準である1.25%で据え置かれてきた。政府からの独立性がそれほど強くなく、景気に配慮しがちな韓国銀行が金利を引き上げたことは、少々の利上げで景気が腰折れる心配はないという自信のあらわれともいえる。
構造問題
次に経済に悪影響をおよぼしかねない構造問題である。韓国の構造問題として取り上げられるものが家計負債である。7-9月期の家計信用残高は1419兆ウォンである。これはGDPの87%に相当し、先進国のなかでも経済に対する家計負債の規模は大きい。ただし、銀行の家計向け貸出の延滞率は0.3%と低く、貸出の多くは住宅担保でカバーされている。金利上昇など延滞率が高まるリスクはあるが、構造改革を通じて金融機関の健全性が高まっている点、断続的に続けられてきた地価抑制策により不動産バブルが形成されていない点から見ても、家計負債問題が顕在化して金融危機に陥る可能性はきわめて小さい。