ほかの経済構造もみてみよう。1997年に通貨危機を引き起こす遠因ともなった企業の過剰負債問題や金融の不良債権問題はおおむね解決している。また経常収支の黒字も続いており、赤字体質であった通貨危機以前の状況から脱している。さらに、もともと財政は健全であり、国家債務の対GDP比は16年で38.3%と、OECD加盟国のなかでもここまで数値が低い国は少ない。
危機に瀕しているとはいえず
もっとも韓国経済にまったく問題がないと断言することもできない。問題のひとつとして世界的な金融危機が発生した場合に対する備えが薄いことがある。韓国は成長率が比較的高く経済も安定している。また資本移動規制がほとんど撤廃されているため、投資先として人気が高い。よって国際金融市場が安定している場合には資金が継続的に流入する傾向にある。
しかし、一転して国際金融市場が不安定となった場合、投資家は手元流動性を確保するため韓国から資金を引きあげる。顕著な例がリーマンショックである。韓国の企画財政部によれば、2008年9月から09年1月までの4カ月間に695億ドルが流出し、これがウォンの暴落を招いた。
外貨準備高は17年11月末で3900億ドル近くに達しているが、多くは外貨建債券などで運用されており、急な資金流出には十分な対応ができない。そのようななか、通貨スワップ取極、特に危機時にドルを受け取ることができる通貨スワップ取極は重要である。
韓国はかつて危機時にドルを受け取ることができる取極を日本と締結していたが、現在は満期により解消されている。韓国が締結している取極のうちでは中国との取極の規模が大きい。しかしこれは危機時に元を受け取るもので役に立ちそうもない。11月にはカナダと上限や満期を定めない取極を結んだが、危機時にカナダドルを受け取る契約であり、これで危機回避ができるかは不確かである。
韓国経済は世界金融危機に対する備えが薄いが、差し迫った世界金融危機の兆候が見受けられない現在、韓国経済が危機に瀕しているとはいえず、好調かつ盤石な経済状況に水を差すものではない。昨今の日韓関係の影響もあるのだろうか、韓国経済に関する報道には否定的なものが少なくなく、些細な問題をあたかも致命的な問題のごとく膨らませるケースまで見受けられる。韓国経済の報道にはネガティブなバイアスがかかる傾向があるので、数字にもとづいた虚心坦懐な判断が必要である。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)