ビジネスジャーナル > マネーニュース > 新NISA、やらないほうが賢明?
NEW

政府が激推し新NISA「やらないほうが賢明だった」説を検証…含み損が続出

文=Business Journal編集部、協力=佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト
【この記事のキーワード】, , ,
政府が激推し新NISA「やらないほうが賢明だった」説を検証…含み損が続出の画像1
首相官邸の公式サイトより

 政府が普及に力を入れている新NISA制度が1月からスタートしたことを契機に、投資信託や株式などへの投資を始めたという人は多い。そんななか、3月には4万円台となっていた日経平均株価は今月、3万7000円台まで下落。SNS上には「やっぱり新NISAマイナス」「NISAで損切り」などとさまざま声な声があがっている。新NISAをやっている人は現在の株価下落を受けて「損切り」など何らかの対応をしたほうがよいのか。また、株価下落はより進むのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 政府が現預金に滞留する家計金融資産を企業の成長投資に振り向ける目的で14年にスタートさせたNISA(少額投資非課税制度)は、投資による売却益や配当金などに課される税金(20.315%)が免除されるというもの。つみたてNISAと一般NISAの併用が不可能であったり、口座開設期間や非課税保有期間が設けられていたりと制限も多かった。これの拡充版といえるのが新NISA制度。つみたてNISAは「つみたて投資枠」に、一般NISAは成長投資枠に衣替えされ、両制度の併用が可能となったほか、非課税保有限度額は合計1800万円(成長投資枠は1200万円まで)、年間投資枠は「つみたて投資枠」はそれまでの40万円から120万円に、成長投資枠は120万円から240万円に引き上げられ、非課税保有期間も無制限となった。

 投資可能な対象商品は、つみたて投資枠は一定の条件を満たす投資信託など、成長投資枠は一定の上場株式、ETF、投資信託などとなっている。

 金融庁によれば、昨年12月までの1年間でNISA用対象の証券口座数は約2割増え2136万口座(18歳以上)。日本証券業協会によれば、証券会社10社の今年2月末時点のNISA口座数は約1400万口座であり、2月のNISA口座の新規開設件数は53万件で前年1~3月の1カ月平均の増加数と比較して約2.9倍。NISA口座開設件数でトップ(23年)のSBI証券では毎月100円からの投資も可能で、国内株式や投資信託の売買手数料は無料で、投資信託の取扱本数は2600本以上、米国株式の取扱銘柄数は5400以上となっている。

株価下落は進行するのか

 政府はNISA総口座数を3400万件とする目標を掲げており、政府の推進を受けてNISA制度を利用して投資を行う人が増えているが、今月に入ると日経平均株価は低迷。X(旧Twitter)上では「NISA」「損切り民」「株価大幅下落」がトレンドワード入り。以下のようにさまざまな声があがる事態に。メディアでも『株価大幅下落で新NISA「損切り民」が続出?』(「テレ朝news」)といった報道も出始めている。

<新NISA損切り民>

<手を出さなかった人は賢明>

<貯蓄より投資と言われてだまされた。もうかるって言ったじゃないか>

<「新NISA始めないやつはバカ」みたいなこと言って煽動して、これ>

 まず前提として、現在の株価下落はより進行すると考えられるのか。つばめ投資顧問アナリストの佐々木悠氏はいう。

「4月の株価上昇を引っ張ってきた主な要因は半導体関連株でしたが、(EUV露光装置を世界で唯一製造する大手半導体製造装置メーカーの)オランダのASMLの1〜3月期決算が市場予想を下回ったことが、株価下落の起点の一つとなりました。一方、半導体ファンドリーの世界最大手・TSMC(台湾積体電路製造)は好業績となっており、ネガティブな材料とポジティブな材料が両方出てきています。

 現在は、期待が高くなりすぎて4万円台にまで上がった株価が調整されている局面だといえます。そして5月に入ると多くの企業の3月期決算が発表されるので、目立った動きがあるかもしれず、注視が必要です」

 では、今の株価下落を受けて何か行動を起こしたほうがよいのか。

「1月から新NISAを始めた人のなかには、現時点で含み損となっている人もいるかもしれませんが、これくらいの幅の損益の上下は普通にあるレベルのものなので、慌てる必要や何かアクションをとる必要はありません。また、下落しているということは安く買えるチャンスという見方もできます。

 つみたて投資枠の人は、ある程度長期の保有を想定している人が多いでしょうから、長期の目線で冷静に構えることが重要です。また、成長投資枠で個別株の運用を行っている場合は保有する銘柄によって状況は異なってきますが、非課税保有期間に制限はないわけですし、この下落を契機として『長期で資産を増やすには、どうすればよいのか』という観点で保有銘柄を改めて振り返るとよいでしょう」(佐々木氏)

 証券アナリストはいう。

「あえて厳しい言い方をすれば、この程度の下落で損切りうんぬんと騒ぐような人は投資には向いていません。デイトレーダーのように頻繁に個別株の売買をするような一部の人を除けば、特にNISAであれば長期保有が基本です。つみたて投資枠の場合、先進各国の株式・債券・リートをバランス良く含んだ投資信託などであれば、10年単位の長期でみれば緩やかな右肩上がりとなり、大きく損をするリスクは低いので『特に何もせずにそのまま保有』というのが賢明な行動となるでしょう。また、企業の3月期決算の発表ラッシュとなる5月は株価変動が激しくなる可能性もありますが、こちらも長期でみれば一過性の動きにすぎないので右往左往する必要はありません。気を取られて本業の仕事に支障が出てしまうほうが、よほど損です。

 一方、売買で短期利益を狙う人にとっては5月はチャンスでもありますが、新NISAがきっかけで投資を始めたばかりの初心者が簡単に利益を出せるほど甘い世界ではないので、大きく勝負することには慎重になったほうがよいです」

金融所得に応じて医療・介護保険料の負担を増やす案

 ここ最近のトピックとして一部投資家の間で関心を集めているのが、政府と自民党が金融所得に応じて医療・介護保険料の負担を増やす案を検討し始めたというニュースだ。SNS上でも

<国民に非課税の新NISAを煽って売って保険料で回収するとか詐欺>

<NISA激推しの理由が判明しましたね>

<やたらNISA NISA言うてたんはこれか〜 エグいなやり方が>

<絶対こういうの狙ってるだろうなと思ってNISAはやらなかった。案の定だな>

といった声が続出している。

 前出・佐々木氏はいう。

「NISAはそもそも非課税ですから、売却益は国民健康保険料を計算するための所得の対象外です。また、会社員の方の社会保険料は、会社で支払われる給与の額を基準にされています。したがって、今回の金融所得による国民健康保険料算定の話で悪影響を受ける方は、自営業者やリタイア層などの国民健康保険の対象者、かつ、これまで金融所得の確定申告をしなかった人たちとなります。とはいえ、この話は現状制度の延長線上の話ですから、今後の政策動向を見守る必要があるでしょう」

新NISAは制度としてはよくできたもの

 では、新NISAはやったほうがよいのか。

「現金だけを持っていればインフレによって実質的に資産の目減りが生じて損をしてしまうことになるので、ある程度を新NISAで投資信託や株などで持っておくというのは、やったほうがよいと思います。また、新NISAは制度としてはよくできたものであり、一定額までなら利益に対して非課税なので、やれるならやったほうがよいというのが個人的な見解です」(佐々木氏)

 また、証券アナリストはいう。

「やれるならやったほうがよいです。銀行預金は今、事実上の金利はマイナス。一方、複数の先進国の株や債券などをバランスよく含んだリスク分散型の投資信託は長期保有すれば一定の利益が出るように設計されているので、他の保有資産とのバランスのなかで一定程度を新NISAに振り分けるというのは、やったほうがよいと思います」

(文=Business Journal編集部、協力=佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト)

佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト

佐々木悠/つばめ投資顧問アナリスト

東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。現在はアナリストとして企業分析や資産形成に関する記事を執筆。会員サイトでは投資に限らず、住宅ローンや資産形成プランなどについてサポートを行っている。
つばめ投資の公式サイト

Twitter:@s_h_tsubame

政府が激推し新NISA「やらないほうが賢明だった」説を検証…含み損が続出のページです。ビジネスジャーナルは、マネー、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!