実は“ガチ富裕層”は手数料が安いインターネット証券ではなく、対面型の大手の野村證券を使っており、なかでも「野村Webローン」で大きな恩恵を受けているという情報が話題を呼んでいる。果たして、そのような実態はあるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
新NISA制度が1月からスタートし、若い人の間でも投資信託や株式などへの投資を始める人が増えている。証券会社各社もこれを好機ととらえ、若年層の顧客獲得のためにさまざまな施策を展開。NISA口座開設件数でトップ(23年)のSBI証券では毎月100円からの投資も可能で、業界の先陣を切るかたちで国内株式や投資信託の売買手数料を無料化。楽天証券は楽天ポイントで投資信託、国内株式、米国株式を購入することが可能で、楽天ポイントで投資信託などを行うと楽天市場の買い物でつくポイントが最大+1倍になるなど、各種楽天サービスとの連携を強化している。このほか、auカブコム証券は25歳以下の顧客の現物株式手数料を無料にしている。
こうしたネット証券の強みは手数料の安さだ。SBI証券と楽天証券は国内株式(現物)の取引手数料が無料、auカブコム証券は約定代金50万円超~100万円以下は535円(ワンショット手数料)。これに対し野村證券の実店舗の取引口座の場合、70万円超~100万円以下の場合は「0.9460%+2728円」、大和証券は100万円の場合は1万2650円(「ダイワ・コンサルティング」コース)となっている。
そのため、投資に手慣れた富裕層であれば投資用口座はネット証券のものを利用していそうだが、少し前にあるX(旧Twitter)ユーザが投稿した話によれば、富裕層である親戚にどこの証券会社を使っているか聞いたところ、野村證券という答えが返ってきて、「野村Webローン」を活用していると教えてくれたという。この投稿をめぐって、
<富裕層は敢えて利確しないからなー。利確して資金作ると税金が掛かるので、証券会社から金を借りる。サービスの分厚さが大事で、そもそも手数料云々なんて気にしてない>
<億単位で金ってるなら野村證券とかの昔ながらの対面証券会社がいいだろうね というのもIPOとか優先して割り当ててくれるから>
<海外旅行とか何百万とかとんでいく高額出費イベントの支払いを平準化・先送りできてええ>
<アクティブに売買しないなら野村でいい>
などさまざまな反応が寄せられている。
野村Webローンとは
野村Webローンは、野村證券の口座に株式や投資信託などの金融商品を保有している人のみが利用できるローン。証券口座の保有資産を担保として、住宅・自動車の購入や海外旅行、家族の介護費用などを目的としたローンを借りることができる。金利は1.5%(4月1日現在/変動金利)で、借入可能額は10万円~1億円、元本の返済日や返済額に決まりはなく、家計に余裕があるタイミングにまとめて返済するなど柔軟な返済プランを組み立てることができる。担保対象有価証券等としては、国内外の株式・ETF、円貨建社債、国内公募投資信託、日本国債などが認められる。
なお、借入の用途としては、事業性資金、野村證券取扱の募集・売出し有価証券の購入資金および野村SMA・野村SMA信託・野村ファンドラップ・ラップ信託、保険商品の契約資金は対象外となっている。
「証券担保ローンと呼ばれる商品で、他の証券会社でも取り扱いはあるが、野村Webローンは他社と比べて金利が低いのが優位点。単純に考えると、野村Webローンでお金を借りて、それを元手により高い利息の金融商品を他社で購入したり、株取引などの資金に回してうまくいけば、儲けが発生するということになる。各種手数料や為替変動リスク、金利変動リスクがあるため、メリットが大きいといえるかどうかは、なんともいえない。ただ、株式はすぐに現金化できるわけではないし、利益を確定させてしまうと税金が発生するので、資産の多くを株式で持っているような人で、なんらかの理由でまとまった現金は欲しいという場合には、株を担保に比較的手軽に現金を調達できるというのは便利かもしれない」(証券アナリスト)
対面型の大手証券会社を使うメリット・デメリット
では、富裕層は野村證券など対面型の大手証券会社を使っている人が多いというのは事実なのだろうか。ちなみに、野村證券の取引口座には店舗型とオンライン専用型があり、後者のほうが手数料は低い。
「高額の資産を持つ富裕層は60代以上の高齢者に偏っており、昔からずっと同じ証券会社を使い続けている人が多いので、結果的に老舗で大手の野村證券を使っている富裕層が多くなっているというのが正しい表現。こうした投資家のなかには、ネット証券をはじめとする他の証券会社を使ったことがない人も少なくなく、そういう人は野村を使っていることで自分が損しているのか得しているのかがわからない。もし仮に他社を使っていれば、もっと利益が出ていたとしても、それに気が付く術がない。
また、営業担当者からチヤホヤされてよい気分になれるというメリットもあるし、その内容が的確かどうかにかかわらず手厚いアドバイスやサポートを受けられるので、たとえ損をしていたとしても『やっぱり野村證券がいい』と思い込んでいるケースもあるだろう。それほど目立った損が出ていないのであれば、営業担当者に言われるがままにやっていればよいし、面倒な手続きも証券会社側がやってくれるので楽ではある。
また、野村證券は大企業の上場の主幹事を務めることが多くIPO案件を数多く持っている。こうした案件は対面で付き合いのある太筋の大口顧客に優先的に紹介されるといわれており、これに関しては野村を使うメリットの一つといえるだろう。ただ、それなりに大きな額の資産を持っている顧客でないと、その恩恵を被ることができない。
逆にいうと、これら以外に対面型の証券会社を使うメリットはない。自分で情報を収集してネット取引ができるようなリテラシーの高い投資家にとっては、手数料が高く、かつ会社側の都合で銘柄を推奨してくる対面型の証券会社を使うのはデメリットのほうが多い。既存の大手証券会社はアナリストによるレポートの提供や、顧客の相続・ローンなど資産形成をトータルでサポートしてくれたり、充実したサービスを受けられるのがメリットともいわれるが、現在では取ろうと思えば深い企業情報は個人でも取れるし、相続なら高い専門ノウハウを持つ独立系の税理士などに相談すれば済むので、繰り返しになるが自分でいろいろ調べて行動に移せる人にとって、対面型の証券会社を使う理由はあまりない」
(文=Business Journal編集部)