最高裁大法廷は12月6日、NHKの受信料制度を「合憲」とする初判断を示した。「偏った放送内容に不満がある」として受信契約を拒んでいた東京都内の60代男性を相手取り、NHKが契約締結や未払い分の支払いを求めて提訴していたものだ。男性は契約を強制するのは「契約の自由」を保障する憲法に違反すると主張していた。最高裁の判決はその主張を退け、放送法64条1項の「受信設備を設置した者は、NHKと受信についての契約をしなければならない」という規定を合憲だと認めた。
今回の判決をどうみるか。上智大学の水島宏明教授はこう解説する。
「NHKの受信料制度というのは、これまではどちらかというと視聴者が自主的に収めるというかたちで長く運営されてきました。今回、最高裁の判断ということで、『NHKから言われたら、契約を結んですぐに払わなければいけない』ということが法律判断として確定した。そうなってくると、視聴者とNHKとの双方向の関係はかなりギクシャクしたものになるということが懸念されます。
NHKの会長や幹部が経費を私的に流用するなど、これまで多くの事件がありましたが、その都度お詫びをしたり、あるいは視聴者のところに電話をしたり、受信料徴収員の方が釈明をしたりというようなことが、何度もあった。視聴者がNHKの方とのやりとりを通して、『自分たちが払う受信料で運営されているのだから、よりよい番組放送をしてほしい』というようなコミュニケーションがあったと思います。
今回の最高裁判決で、法的に厳密な意味では違いますが、要するに受信料は税金と同じなんですと、個々の内容について気に入らないことがあっても、これは払うのが義務なんだいうことになると、NHKの側もより居丈高になるという懸念があります。視聴者の側としては、『自分が見て、あまりいい放送ではないというようなものばかりだったら払わない』という抵抗の手段がなくなってしまいます。決まっているんだからしょうがない、口も出せないですね、という、かなりドライな関係になってしまうのではないでしょうか」
また、立教大学の服部孝章名誉教授はこう語る。
「今回の判決には、きちんとした受信料の将来像を展望しなかったという点で、そうとう大きな不満があります。NHK自身、国会、総務省も、社会全体に受信料の意味を理解させようとせず、曖昧なままずっとやってきたということがあると思います。本来は三者が努力しなければいけないところを、最高裁に頼って解決しようとしたこと自体に問題がある。まだ払っていない人がいたり、契約してない人がいたら、それぞれ裁判を起こさなければいけないわけですよ。そういう意味では、解決したわけではない。さらにいえば、契約が合憲だという割には、根拠が薄いと思います。大法廷で審理したわけですから、もう少し丁寧に説明してほしかった。