明治の初めに創業した老舗、木村屋総本店副社長の福永暢彦氏は、外部から送り込まれた経営者だ。従来のやり方に慣れ親しんだ社員たちや業界慣習と向かい合い、この老舗を見事によみがえらせた。回復フェーズを通過し、成長フェーズをうかがう福永氏に、これまでの苦闘とこれからの展望、戦略を聞いた。
木村屋総本店の売上構成の中心は袋パンだった
福永暢彦氏(以下、福永) 木村屋というと東京・銀座4丁目にある、あんぱんで有名な銀座木村家が知られていますが、木村屋総本店と同じルーツの別の法人であり、事業内容や主力の商品なども異なっています。
――そうなんですか? でも貴社でもあんぱんを扱っています。
福永 木村屋総本店のスーパー・コンビニエンスストア向けの事業では、袋パン向けに独自に開発設計したあんぱんを、埼玉と千葉にある工場で製造しています。当然、あんぱんの老舗をルーツとする企業として、こだわりの生地とこだわりの餡を使用した、大手メーカーとは差別化した袋パンのあんぱんです。
――現在の事業構成をご説明いただけますか。
福永 木村屋総本店には、デパートなどで伝統的なあんぱんを中心に販売している「直営店事業」と、袋パンを製造・販売している「スーパー・コンビニ向け事業」に大きく分かれており、後者が売上全体の80%を占めています。
――福永さんは木村屋総本店には外部から5年ほど前に着任なさったのですね。外から来てみてパン業界の難しさは、どのようなところでしょうか。
福永 一番の特徴は日配(にっぱい)業だということですね。前日までに受注した一定のボリュームを、翌日の決められた時間までにはスーパーやコンビニの店舗に届けなければなりません。物流は時間がタイトで待ったなしの状態であり、受注から納品までのリードタイムが短く生産計画がとても立てにくい状況にあります。
袋パンの場合、消費者が製造メーカーを認識しづらいほど類似品が溢れかえっていて、パンメーカーは数が多いので競争が激甚です。近年、コンビニ向けにはパン専業ではない食品メーカーがパンを提供したりして、新規プレーヤーの参入も続いています。もうひとつ特徴を挙げると、小売りの力がとても強い、言い換えると、メーカーサイドの提案力がとても弱いということです。