――どんな分野ですか?
福永 薄利多売の日配ビジネスであるスーパー・コンビニ向け事業は、計画生産がとても難しいビジネスです。しかし難しい条件、つまり与件のなかでも自分たちの行動を変えることで、100点は難しいが可能な限りの計画生産にチャレンジしてきました。
――具体的には?
福永 大手チェーンでの特売セールでは造個数が大幅に増えます。日常の受注とのふり幅が大きくなるほど、実は製造コストが大きくなり損失が膨らみます。私の着任初期にとあるスーパーさんのチラシに載せれば売上が何百万円になる、という受注を社員が取ってきたときにお断りさせたこともあります。そのやり方は旧来の社員たちにはなじめないところもあったようです。「利益につながる売上」という意識を持ってもらうことに腐心しました。
――私も再生経営者として見知らぬ会社に着任した時に、いつも社員の意識を変えることに苦労しました。
福永 各チェーンからの袋パンの注文は最終的には前日までに来るのですが、それにしても過去のトレンドを見たり、それぞれのスーパーさんとしっかりお話ししていれば、どの程度の受注が来るのかはある程度わかるでしょう、と言ってきました。あとは、その見込みに対して人員を配置したり、生産計画を立てたりしてもらうわけです。「100点は無理だけど計画生産にチャレンジしよう」と旗を振ってきました。
当社の取引先の大口はスーパーとコンビニです。スーパーさんのチラシに当社の袋パンが載ると、多くの注文が入ります。嬉しいことなのですが、それが予測できていなければ、生産対応できない。セールスチャンス・ロスとなったり「利益なき繁忙」として生産しなければなりません。
具体的に見ていくと、お取引先であるスーパーさんの販売パターンが見えてきます。販売パターンがわかったことで当方も対応の仕方が見えてきました。個別のスーパーの状況だけでなくスーパー・コンビニ向け事業全体として予測して、計画生産につなげる仕組みが徐々にではありますが出来上がってきました。
――パンの種類は減らしただけなのですか。
福永 いいえ、減らしたアイテムと増やしたアイテムがあります。増やした、というのは当然新製品の開発になりますが、以前のように漠然と商品を出すのではなく、「強み・こだわり」が詰まった「利益が出るパンの開発」というテーマで取組んできています。「利益が出るパンの開発」とは、決して原材料費を抑制することではなく、原材料の廃棄抑制、生産性の向上、定番化することでの計画生産度合の向上など、製造・販売の起点としての重責を果たせる製品開発にチャレンジしています。
オペレーションの改善という点では、計画生産と開発の方向性の具体化、この2点が大きな改革だったと思います。生産量のふり幅を少なくするというのは結構難易度の高いチャレンジだったと思います。
――そのほかには?
福永 計画生産の度合が低いことなどから、残業も多く発生していましたが、全体として大きく改善してきました。また、以前はゼロであった女性管理職が4名、毎日重責を果たしてくれています。
インストアベーカリーと大手パンメーカーの間で、独自のポジションを確立して成長していく
――日本の袋パンメーカーのなかで、木村屋総本店はどんな位置取りになっているのですか。
福永 まず、年商が1兆円を超えるガリバーのような存在が山崎製パングループです。続いてフジパングループ、パスコグループが2000億円以上の年商規模です。
――2位からいきなり桁違い、年商規模が下がっているわけですね。
福永 はい。そして年商200億円を超える規模の袋パンメーカーが数社あり、木村屋総本店のスーパー・コンビニ向け事業の年商はもう少し規模の小さいところに位置しています。
――いわゆる街のパン屋さんはそれこそたくさんありますね。
福永 店内でパンを焼いている業態は「インストアベーカリー」と呼ばれています。これらは製造した焼きたてパンを直接消費者に販売しているわけです。我々のスーパー・コンビニ向け事業は、大手パンメーカーほどに機械化されていませんし、インストアベーカリーのように手づくり度が高いわけでもない、という中間的なポジショニングです。
――中間的なポジショニングのメリットとデメリットはなんですか?
福永 当社も含めて、中間に位置するパンメーカーの悩みは、なんといっても大手との競合にさらされていることです。大手の強みには実は物流網もあり、パンメーカーにとっての物流費の割合の高さからは、とても効率の面で勝負になりません。
また、大手と同じようなパンの製造に走ってしまうと、大手が製造する効率のよさにこれもかないません。中堅メーカーは特色あるパンを開発し続けないと生き残ることが難しい業界です。製造において大手よりも一手間と時間を余分にかけたつくり方をすることで、大手と差別化したカスタマイズ度合の高い、そしておいしい袋パンをつくれることが当社の強みです。我々はこの中間的なポジショニングを「中量生産」と定義して、木村屋総本店の袋パンの開発・製造の強みとしていきたいと取組んでおります。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
※次回に続く
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