アスクルが完全復活した。
2021年5月期業績の上方修正と同時に、期末配当を6円増の25円とし、中間配当19円と合わせて年44円とした。さらに1対2の株式分割を実施。加えて発行済み株式数の7.2%にあたる400万株の自己株式を3月31日に消却した。
業績の上方修正に株式分割、増配、自己株消却と手厚い株主還元策が加わったため、アスクル株は急伸。発表翌日の3月17日の株価は前日比550円(15.5%)高の4100円まで上昇した。この勢いは止まらず、3月31日には4265円と年初来高値を更新した。ちなみに4月2日の終値は4155円である。
アスクルは東京証券取引所の新市場区分で「プライム」入りを目指しており、一連の措置は上場基準の流通株比率を高めるのが狙いだ。自己株消却後の流通株比率は40%超(従来は37%)になる見通し。プライムでは流通株比率35%以上が求められている。アスクル株式の4割強をZホールディングスが保有していることを考慮し、5月20日を基準日として1株を2株に分割することも決めた。
消毒液や飛沫防止パネルなどの衛生用品が好調で上振れ
業績は好調だ。2021年5月期の連結決算の売上高の見通しは前期比4%増の4160億円(従来予想は4100億円)、営業利益は47%増の130億円(同108億円)、純利益は24%増の70億円(同60億円)にそれぞれ引き上げた。営業利益と純利益は過去最高となる。
17年2月に発生した埼玉県内の物流倉庫火災の影響から、18年5月期に営業利益が41億円に落ち込み、19年5月期も45億円と低迷した。ところが今期は130億円と初めて100億円の大台を突破する。火災前の営業利益の水準(80億円台)を大きく超えることになる。
新型コロナウイルス感染拡大で医療機関や企業向けに、採算の良い消毒液や飛沫防止パネルなどの需要が増えた。20年4月の緊急事態宣言でオフィス用品の通販の売り上げが落ち込んだものの、手指消毒液やマスク、使い捨てグローブなどの感染対策のアイテムの売り上げが伸びた。今後、消毒液などの需要がすぐに落ち込むことは考えにくい。
ヤフーによる強引な買収
業績好転はヤフーを傘下にもつZホールディングス(HD)との連携強化で通販事業の規模が拡大したことが関係している。2019年、ヤフーによるアスクルの買収は物議を醸したが、結果的に業績拡大につながったといえる。
両者が対立したのは、アスクルの個人向けネット通販「ロハコ」事業のヤフーへの譲渡問題だった。譲渡をアスクルは拒否。これを受け、ヤフーは火災がもたらした業績低迷を理由に創業者の岩田彰一郞社長の再任に反対した。アスクルの独立役員会は筆頭株主ヤフーによる社長の退陣要求について、「上場企業のガバナンス(企業統治)を無視している」と非難した。
ヤフーは一気に勝負に出た。岩田社長の再任に反対しただけでなく、独立役員の社外取締役3人の再任にも反対した。19年8月2日の株主総会でアスクル株の45.1%を持つヤフーとアスクルの出身母体で11.6%を持つ文具大手、プラスが再任に反対したのだから投票前から結果はわかっていた。
一連の強硬策は株式市場で大きな波紋を描いた。ZHDの親会社ソフトバンクグループの孫正義会長は、ヤフーの一連の手法に「反対」を表明した。見かけ上はヤフーの川邊健太郎社長はハシゴを外された格好となった。アマゾンジャパンと楽天が国内の電子商取引(EC)の2強。ヤフーを傘下に持つZHDがここに割って入ろうとしている構図だ。
「万年3位を返上し、2020年代にECトップになる」。ZHDの川邊社長は宣言している。川邊社長はZHDと事業会社ヤフーの社長を兼務している。川邊社長が孫氏から与えられた使命(ミッション)は、アマゾン・楽天を抜いてトップになること。19年にアスクル、さらにZOZOとEC企業を傘下に収めたのは、その一環である。21年3月にはLINEと経営統合した。
天下取りの戦略を描く1枚のカードがアスクルである。ヤフーは物流機能を持たない。アスクルは「明日来る」の言葉通り、1990年代からスピードを重視して、全国各地に拠点を構えた。ヤフーが狙ったのはアスクルが全国各地に整備している物流拠点だとみられている。
ヤフーとアスクルの一体経営は相乗効果をもたらした。アスクルの株価が上昇し、「プライム」市場入りを果たせば、望外の成功となろう。
(文=編集部)