銀行は「年収の3分の1超」の貸し付けを死守
銀行カードローンへの風当たりが強まり、金融庁は対応を強化せざるを得なくなった。無担保で使い道が自由な銀行カードローンの残高が増え続け、「多重債務の温床」との懸念が現実のものとなってきたからだ。
銀行のカードローン残高が急増するなか、2016年の自己破産の申請件数が6万4637件と13年ぶりに増加した。自己破産は03年の24万2000件をピークに減り続けていた。
自己破産が減ったのは、消費者金融への規制強化の影響が大きかった。多重債務問題を受け、改正貸金業法が06年に成立し、10年に完全施行された。利息制限法の上限金利(年率20%)を超えるグレーゾーン金利が撤廃され、年収の3分の1超の貸し出しは原則禁止となった。
それでも自己破産が増加した背景として、日本弁護士連合会などは、銀行の無担保ローン(カードローン)での過剰融資が原因と指摘する。銀行は貸金業法の規制対象外のため、銀行のカードローンが、「サラ金地獄」のような多重債務の温床になると警鐘を鳴らしている。
貸金業者には総量規制が適用される。貸金業者が個人に融資する際、その人の年収の3分の1を超えて融資してはならないという規制のこと(10年6月施行)。年収300万円の人であれば、貸金業者から合計100万円を超えるおカネは借りられない。貸金業者とは消費者金融会社やクレジットカード会社を指す。
一方で、銀行のカードローンは総量規制の対象外だ。理由は単純で、銀行は貸金業者に分類されていないからだ。そのため、消費者金融やクレジット会社からの借入額が年収の3分の1に達している人でも、銀行のカードローンを利用すると、さらにおカネを借りることができる。
その結果、銀行のカードローンの利用者はどんどん増え、全体の残高も急増。17年9月末の全国116行のカードローン残高は5兆7717億円と前年比7.2%増えた。一方、消費者金融とクレジット会社を合わせた同年9月末の残高は4兆895億円。銀行のカードローンのほうが貸金業者の融資総額より多くなった。
つまり、かつて「サラ金地獄」と呼ばれた多重債務問題が、今度は「銀行ローン地獄」に取って代わったのである。
銀行のカードローン問題が大きな社会問題に発展したため、金融庁は貸し出し残高の多い銀行に的を絞って立ち入り検査に乗り出した。新生銀行がレイクの新規融資の停止に踏み切ったのは、金融庁の検査と無縁ではないだろう。
多重債務の懸念から銀行カードローンの規制強化を求める声があることについて、全国銀行協会の平野信行会長(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)は17年6月15日の記者会見で、「規制を課すことは適当ではない」と述べた。「借り入れが年収の3分の1を超えても、返済できるなら目的を問わず貸してもいい」との考えを示した。具体的には、「教育資金や冠婚葬祭などで高額融資のニーズがある」とした。
銀行は「年収の3分の1」という上限規制が銀行カードローンに適用されることには、断固反対という立場だ。
新生銀行が落城した。次は、どこか。「年収3分の1超の貸し付けもOK」という低いハードルをいつまで守り通せるのか――。これが「銀行vs.金融庁」の今後の見どころとなる。
(文=編集部)