大和総研は昇格・昇進を遅らせることで中高年の人件費を削減していると分析し、みずほ総研は高齢者の人件費を捻出するために他世代の人件費を抑制していると分析する。いずれにしても今の中高年世代にとって受難の時代といえる。
役割給の導入
数多くの企業の賃金制度設計を手がけている人事コンサルタントもこう指摘する。
「昔に比べて40~50代の賃金が確かに下がってきています。制度設計上、従来の賃金カーブを早期に立ち上げ、30代である程度の生活ができる賃金水準にする。それ以上は同じ仕事をしていたら基本的に上がらず、上がるには管理職になるか高度専門職になるしかない仕組みにしている企業が増えています」
賃金制度の変革による賃金引き下げだけではない。企業のなかには賃金制度そのものをいじらずに意図的に引き下げている企業もある。
「年功的な賃金制度を導入している企業のなかには一定年齢になると評価に関係なく、2ランク降格させて給与を2割程度下げるところもあります。給料が50万円なら40万円になる。表向きは『仕事が変わりました』『役職を降りました』ということになっていますが、実際に本人に聞いたら部下の面倒を見るなど以前と同じ仕事をしている。そういうケースは結構あります」(前出コンサルタント)
賃金制度の改革で主流となっているのが「職務・役割給」制度の導入だ。この制度は欧米企業の「職務給」に比較的近いものだ。簡単にいえば、従来の給与制度が本人の能力や過去の実績など「人」を基準に決定していたのに対し、役割給は今就いている「仕事」を基準に賃金を決定する。つまり、人を基準にすると、どうしても年功的になるが、役割給は年齢に関係なく役割(ポスト)で給与が決定し、ポストが変われば給与も変わり、当然ながら降格・減給が発生するという仕組みだ。
企業にとっては年功で自然に上がる仕組みと異なり、人件費管理が容易になり、結果として下げることも可能になる。15年以降、ソニー、日立製作所、パナソニックなどの大手企業は年功要素を排除したこの制度を導入している。
役割給の導入には社員や労働組合の抵抗が強いため、経営不振など会社の危機的状況や合併を機に導入されることが多い。実際に合併を機に導入した大手IT企業の人事部長はこう語る。
「今では同じ45歳でもポストによって年収1000万円を超えている人もいれば、400万円台の平社員も珍しくありません。また、降格・減給も発生します。部長職の年収は大体1500万円ですが、ワンランク降格すると月給で10万円も減ります。賞与を含めた年収で200万円も下がります。同期の年収を詳しく集計はしていませんが、45歳の部長もいれば、課長や係長も結構いる。係長だと約600万円だから部長との年収差は900万円にもなります」
40代といえば子供を抱える世帯も多く、年収400万円では生活も苦しいだろう。春闘で3%の賃上げが実現したとしても焼け石に水である。こうした低年収の名ばかり“大企業正社員”がじわじわと増えているのだ。
(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)