このようにジェントルマンたちが「植民地経営」を始めたことは、現代的視点から見るとその是非が問われる論点ではあるが、のちのちジェントルマン階層の変質をもたらした。
というのは、ジェントルマンの家庭でも次男以下の兄弟については、その地位をどうするかという問題がついてまわっていたからだ。最初は家を継ぐことができないジェントルマンの次男は弁護士や医者といった知的職業に就くことでジェントルマンに準じた地位を得ることができた。ところがそういった職業が世襲されていくと、新しいジェントルマンの次男や三男のポストがなくなってくる。
それと植民地経営が結びついて、ジェントルマンの次男たちはアメリカやインドなどの植民地の管理者として赴任するようになる。
最終的に大英帝国の植民地が全部独立してジェントルマンのポストがなくなっていくのと機を同じくしてイギリス社会はイギリス病にかかっていくわけだが、それはさておき、今の日本がこの歴史から学べることはなんだろうか?
日本のジェントルマン
現代社会の日本で、大英帝国のジェントルマンのように「働かなくてもよくて財産を持っている階層」とは、ひとことで言えば豊かな高齢者である。実際、日本の個人金融資産の大半は高齢者が所有している。
よく「日本人の平均預金額が1000万円だ」というようなニュースがあって、「誰がそんなに持っているんだ!」と話題になるが、あれは大半の日本人が数百万円か数十万円の預金しか持っていない一方で、高齢者が数千万円の預金を持っているからだ。
その日本のジェントルマンである高齢者には未来に不安がある。だからお金を節約してなるべく預金を使わないようにしている。せっかく数千万円持っている金融資産についても、フィナンシャルプランナーの勧めで、60歳を超えたらリスク資産である投資には回さずに、安定資産である銀行預金にしておくのがいいと教えられる。
だから日本のジェントルマンは近代イギリスのジェントルマンと違い、お金も使わないし、投資もしない。ここに日本が1990年代以降、イギリス病から抜け出せないひとつの理由があるように思えるのだが、みなさんはどう思われるだろうか?
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)