星野リゾートの発想は異なる。端的に言えば、適正な価格で満足感と信頼のあるサービスを提供できれば、管理面や法令遵守への不安のある民泊提供者との差別化が進むということだ。つまり、同社は市場原理を活用することで、民泊利用者の需要を取り込むことを考えている。それができれば、民泊というシェアリングエコノミーに根差したビジネスから収益を上げることができるはずだ。
こうした取り組みが、わが国には欠かせない。シェアリングが増えると、その分、新規の消費が増えづらくなるかもしれない。重要なことは、シェアリング需要を新しい収益につなげることだ。シェアすることで節約されたお金を、他の消費に回すよう消費者の心理を刺激することも欠かせない。そのためには、政府、地方自治体が企業の取り組みの意義を理解し、規制を緩和するなどして民間の創意工夫やノウハウを経済発展につなげようとする姿勢が不可欠だ。
発展のチャンスの芽を摘みかねない、地元からの反発
新法に基づいて民泊サービスを提供するためには、都道府県の保健所に申請を行い、許可を得なければならない。つまり、各地での民泊実施には、地方自治体の判断が影響する。星野リゾートは軽井沢で民泊サービスの開始を検討している。一方、軽井沢町は民泊の全面禁止を求めている。理由は、高級リゾート地としての同町のブランドイメージが崩れるといった不安だ。その考えの根底には、同町内で民泊が認められると、規制をすり抜けた海外の事業者などがサービスを提供し、安かろう悪かろうの発想に近い宿泊サービスが提供されるとの懸念があるのだろう。自治体、地域住民がそうした不安を持つのも無理はない。
こうした自治体にとって、本来、星野リゾートの取り組みは歓迎すべきものである。同社のブランド、これまでのリゾート施設運営の実績を活かした民泊サービスは、従来の民泊に対する“思い込み”を一掃するチャンスになるだろう。遊休資産(別荘など)は、メンテナンスをしないと経年劣化してしまう。その原資を確保するためにも、民泊を行う意義はある。有効活用だけでなく、来訪者数が増加することで、派生需要がもたらされることも考えられる。想定外の問題には、その都度企業と協議を重ね、改善への方策を探るのが現実的だろう。はじめから新しい取り組みが旧来の価値観に合致しないと考えるのは、将来のチャンスを見逃すことにつながる恐れがある。