JALやANAと同等サービスでもお値打ち価格!「あいまい経営」の「ヘンな」航空会社?
こうした前提のもと、FSCよりお値打ちな価格を実現するために、顧客に見えない部分での徹底したコスト削減が行われている。たとえば、機内において無料で提供されるお菓子やコーヒーなどを購入している企業は単なる仕入先ではなく、FDAのスポンサーとして低価格での仕入れ、FDA機内誌への広告出稿などを行ってもらうことにより、コストを削減している。
さらに、機材の回転率を向上させることによるコスト削減にも精力的に取り組んでいる。そのために、まず機内の清掃は大手FSCであれば専門業者に委託するところ、FDAでは客室乗務員が担当している。これにより、清掃にかかわるコストが削減されるのはもちろんのこと、時間の短縮にもつながっている。大手FSCの場合、到着から出発まで通常1時間かかるところ、FDAでは25分と半分以下の時間で行っており、こうした積み重ねにより1日の便数を増加させることに成功している。
25分という極めて短時間での離発着を実現している要因には、客室乗務員による清掃のほか、関連会社であるエスエーエスによる迅速な地上取扱業務、約80席という小型機の強みを生かした短時間での乗客の乗り降りなども大きく影響している。つまり、他社が簡単には模倣できない仕組みによる低コスト化を実現しているわけである。
FDAの広告戦略
いまやインターネットの時代といわれるが、費用対効果を見ると、やはりテレビCMは効果的である。特に地方部では強い影響力を保持している。たとえば、テレビCM直後の乗客数は小牧発では130%アップ、松本や山形発170~180%アップという状況である。そのため、ネットの時代とはいえ、既存のマスメディアも利用したプロモーションが展開されている。
しかしながら、テレビCMを頻繁に流せば多くの資金が必要となるため、コストを抑えつつ認知度を高める取り組みとして、ラジオなどのメディアも活用している。
具体的には、FDAの客室乗務員がその日のFDAの運行情報を伝える『名古屋小牧空港フライトインフォメーション presented by FDA』という番組を月~金曜日の朝にFM愛知で放送している。番組の放送時間自体はわずかではあるが、毎日行うことによりリスナーへのFDAの“刷り込み”が意図されている。
低価格のみを前面に打ち出すLCCでは通常、マスメディアを活用した広告は行われていない。一方、大手FSCは有名芸能人を採用したマスメディア広告が頻繁に行われている。基本的な経営戦略とも重なるが、FDAの場合はこうしたことに確固たるスタンスをあえて決めず、“コストを抑えるために広告は行わない”ではなく、“効果のあるものは積極的に行っていく”という方針となっている。
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