準中型免許が創設されてから1年。普通免許は18歳から取得が可能だが、中型免許は20歳にならないと取得できない制度になっていた。
近年、アマゾンをはじめとするネット通販の拡大で、物流需要は増加の一途をたどっている。一方、物流業界は、トラックドライバーをはじめとする人手不足に悩まされている。ドライバーの高齢化は激しく、長時間拘束される長距離ドライバーは特に不人気だ。物流事業者は新卒の若者を率先して採用しようと試みているが、思うように人が集まらない。それは、トラックドライバーが低賃金・長時間拘束という重労働であることに理由がある。
そうした労働環境を改善するべく、各社は人手を増やす方針を強化。人手が増えれば作業を分担することができる。ひとりが受け持つ荷物の総量を削減することで、労働時間の軽減につながる。準中型免許の創設も、業界が長らく要望してきて実現した労働環境改善策でもあった。トラック業界の関係者は、こう話す。
「準中型免許の創設は、高卒の若者を物流業界に引き寄せるために創設されたと言っても過言ではありません。2007年に中型免許が創設されたのですが、中型免許の創設で、いわゆる4トントラックと呼ばれるタイプのトラックが、普通免許では運転できなくなってしまったのです」
中型免許は、20歳にならないと取得できない。高校を卒業後にほかの業界に入ったら、その後に転職してトラックドライバーになる若者を探すのは困難だ。高校卒業時に中型免許が取得できない状況は、トラック業界において悩ましい問題になっていた。それにもかかわらず、中型免許が創設された背景とは何か。
「自動車教習所で普通免許を取得する際は、ほとんどがセダンタイプの乗用車です。トラックを運転することはありません。4トントラックは乗用車とは運転感覚がまるで違います。普通免許だけを教習し、4トントラックの運転経験がないと事故が多発してしまう恐れがあったのです。そうしたことから、国土交通省や警察庁が安全を考慮して中型免許を創設したのです」(前出・トラック業界関係者)
中型免許が創設されたことによって、トラックドライバーの安全意識は高まったものの、物流業界は人材不足という危機に陥った。人手不足に危機を感じた業界団体は、18歳でも取得可能な準中型免許制度の創設を要望。17年3月に晴れて準中型免許制度がスタートした。準中型免許は、いわゆる4トントラックを運転することはできないが、コンビニ店舗への配送車は運転が可能だ。
若者に準中型免許を取得させ、コンビニ配送車でトラック運転の経験を積ませる。これまでコンビニ配送を担当していた中堅ドライバーを4トントラックの需要に振り分ける……。業界は、そんな青写真を描いていた。
人手不足の根本的理由
しかし、物流業界の思惑通りにトラックドライバーを志望する若者が物流業界に流れ込んでくることはなかった。制度が発足してから半年間で、準中型免許を取得したのは全国でも3000人に満たない。トラックドライバー不足が深刻化している都市圏でも、東京都・大阪府がともに約200人と少ない。トラックドライバーの成り手を掘り起こそうという意図で創設された準中型免許は、明らかに空振りした格好だ。
「トラックドライバーが不人気職業になってしまったのは、1990年に貨物自動車運送事業法が改正されたことが大きな要因です。法律が改正されたことで、物流トラック業界は免許制から許可制に移行。原則、自由化されたので、多くの業者がトラック輸送事業に参入してきました。その結果、輸送費の値下げ競争が起こりました。値下げ競争が激化したことで、トラックドライバーの賃金は低下してしまったのです」(自動車雑誌編集者)
賃金低下により、働き方次第では年収1000万円も夢ではなかったドライバーの年収は大幅にダウンした。年収は減る一方で、長時間労働は以前より深刻化。トラックドライバーを志望する魅力は乏しい。
「トラックドライバーになろうと考える若者が少ないのは、なによりも収入が少ないことが理由だと思います。準中型免許でドライバーを増やそうなんていう、小手先のアイデアを考えても意味がないんです。年収1000万円以上稼げれば、多少は過酷な労働環境でも若者がそれなりに入ってきます。本来、業界団体は賃上げ要求に取り組まなければならないんですよね」(前出・トラック業界関係者)
ドライバーを増やすという目的を内包していた準中型免許の創設から1年。若手ドライバーを増やそうとしたものの不発に終わり、ドライバー不足と高齢化はむしろ深刻化する一方になっている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)